結界

天蓋のかかったベッドは私しか入れない結界で

無敵な結界を破ったのはただ一人だった





窓を小さく開けると風が天蓋を揺らし、月明かりが優しく差し込む

それが少しだけ眠気を誘って、私は小さく欠伸をする


私の小さな城の私の小さな結界

誰も入れない、小さなシェルターでもあって

一人ぼっちが大好きな私はここから出たいなんて思えない


今夜の月は少しだけ妖しく見えて

心がザワザワと落ち着かなくなる

恐怖ではなくて、期待とある種の興奮


「梨沙子」

「みや…やっほー」


ストンと軽やかに窓の桟に足を駆ける姿は

しなやかに身体を伸ばす猫みたいだと思う


隣の家の不思議な住人。

それが私がみやのことで知ってること

でも、いつからかこうやって窓を使って私の部屋に来る様になった


決まって、三日月。

決まって、家に一人の日。

私の気持ちを見通しているみたいに

寂しい時だけ来てくれるヒーローみたいな、魔法使いみたいな存在


「だいぶ、暖かくなってきたよ、外」

「そっかー…じゃあ、散歩行きたいな」

「行く?今から」

「んー、行きたいかも。」

「行こっか」


スッと伸びて来る手に私は簡単に攫ってしまえそうな

どこかここじゃない所へ連れて行ってくれそうな

そんなことが少しだけ嬉しくて

でも、それは私にとって未知の世界で

みやが一緒だからって、全てが上手くいくワケないってこと

そういう不安がいつもつきまとっている

拭おうと思っても、簡単には拭えない

そんな不安がグルグルと巡っている


「うぅん、無理だよ」

「何で?」

「んー、何でだろ?」

「そっか…」


理由を言わない、はぐらかした私に

みやは妙に納得した様な表情を見せる

あぁ、なんか大人だなって漠然と思わされる


「確かに、梨沙子には外は似合わない」

「…」

「あんなゴミの中似合わないよ…」

「ゴミ?」

「梨沙子はそこが似合ってる」


微笑みながらベッドを指差す

ちょっとだけ悲しく見えて、

やっぱり月夜にみやはお似合いだと思って

凄く、凄く触れてみたくなった


「でも、ちょっとだけ隣にいてみたいって思う」

「へっ?」

「もう少しだけで良いから、梨沙子の近くにいてみたいって思うんだ」


照れた様に目線を反らせて、ボソボソと呟くみやは

手放したらいけないって思わせるもので

初めての感情が私の中で生まれて、弾けた


これって、多分独占欲だ…


「良いよ、みやなら」

「何が?」

「結界の中、入れてあげても」


少しの沈黙のあとにみやがフっと鼻で笑った

ニヤリとしたその表情は

まるで空に浮かぶ月が笑ったみたいで

するっと入って来る姿も

天蓋を透かす月光みたいで


みやはずっと、ずっと私のことを見守っていてくれたんじゃないかって

そんな錯覚に陥ってしまいそうで

少しだけ、現実から目を逸らしたくなって目を閉じてベッドに倒れ込む

フワッと包み込まれる様な感覚は幻じゃないよね?


閉じた目はまだ開けられないけれど

身体全体で感じる温もりで

私の結界がみやに負けたことを悟った