Don't be late

左腕の時計と背後、頭上にある時計の針を見合わせる

少しのズレはあるけど、時間は大体同じ

もう午後1時になるちょっと前だ



Don't be late



休日の駅前は沢山の人で賑わっていて

あまり、と言うかかなり小さい方の私には結構辛い場所だったりする

それでも、待ち合わせをしたいって言った彼女のワガママを聞いて

今回も駅前の時計の下で待ち合わせってことになった


基本、桃は待ち合わせが好きだ

大勢の時でも、二人きりの時でも、どこかへ行く事になったらまず

『どこで待ち合わせする?』

と、いの一番にそのセリフを吐き出す


それまでは別に可愛いもんなんだけど、

桃のダメなところは、自分で決めておいた待ち合わせに堂々と遅刻するところだ

と言うか、時間に間に合ってきた試しが無い


それならば、こっちも遅刻してやろうと思うのだが

仮に、もし万が一、億が一にでも桃が時間通りに来てしまっていたなら

『あー、あー、キャプテン遅刻ー!もぉの事待たせていいんですかぁ〜?』

なんて言い出しそうだから、迂闊にそんな事は出来ない仕様になっている


今日もいつも通り桃が待ち合わせ時間の午後1時に来る気配は無い…

慣れた事とは言えど、ちょっと精神的に疲れる

“またかぁー”って怒りたい気持ちと

“事故とかじゃ無いよね?”って心配する気持ち

桃が遅刻の確信犯で常習犯であるとは言え、

後者の可能性が全く無いワケではないから、

私はいっつも桃が来るまでどんな顔をして待っていたら良いか分からない


「キャープテン!!」

「遅い…」

「えー、今日早い早い!!だってまだ10分だよ?」

「遅刻に変わりないじゃん」


どんな風に桃を見たら良いか分からないから、

腕時計を見て、頭上の時計も確認する

確かに桃が言った通り長針は2を指すか指さないか微妙なところにある

いつもの桃にしては早いのは認めざるを得ない


「でもね、この前キャプテンちょー怒ったじゃん」

「あー、そう言えば」

「だから、今日は頑張ってみたんだよ?」


何が“でもね”なのかは分からないけど、

それも桃と話していると頻繁にあることで

ツッコミはじめたらキリがなくなるから最近ではスルーが多い

だけど、それも桃が気付きはじめたみたいだから

効果を発揮できるのがいつまでになるかは時間の問題みたいだけど…


「あぁ、うん…て言うか、遅刻してるって自覚あるなら」

「あーあー、それ前も聞いたから聞きたくなーい」

「いやいやいや…100歩譲って私との待ち合わせは遅れても良いけどさー、他の人の時は…」

「ちょっとずつ早くなってるんだよ!」


エッヘンと言いながら胸を張って、得意気な顔をする桃

威張る様な事じゃないんだけど

桃が言うと何だかそれが当たり前の事の様に聞こえて

ちょっと笑いそうになってしまう


「分かったからさ、遅刻はダメだよ今度から」

「はぁーい」

「うわー、絶対思ってないしー」


いつも通りに桃が遅刻したパターンと同じで

私がお小言をくれてやって、桃がそれに適当に返事をする

結局、それは桃に届いていないみたいだけど

何と言うか定番になってしまった行為だから、しておかないと落ち着かない


「でもね、キャプテン」

「んー?」

「桃の事心配してくれてるってのはちゃんと分かってるよ」

「んー…」

「反応うすーい!て言うか、何かイライラしてない?もぉが遅刻したから?」


さっきの話題とテンションを引っ張ったままの桃は

歩き始めて半歩前を行く私の腕をチョンチョンと突いてくる

て言うか、また意味の無い“でもね”を使った

いちいち桃の行動が気になってしまってる…


「あー、もうっ!!」


本当はいつも通りの事なんてしなくたって良い

ただ素直に一言、桃に言えば良いだけなのに…

簡単に言える一言なのに…


「ねぇキャップ、どうかした?」

「遅刻、ダメだってやっぱり思うよ」

「だからーそれは謝ってるじゃん、ごめん…」

「でもね、本当はそうじゃなくて…」


あっ、“でもね”がうつった

違う、そう言う事考えなくて良い

今は、伝えなきゃ、ちゃんと桃に伝えなきゃ


「結構マジで心配してるし、何よりも早く桃に会いたいって思ってるの」

「えっ?」

「だから…だから、遅刻はして欲しくない」


そう言い切ってちょっと俯く

後悔なんてしていない、ただちょっと恥ずかしいだけ

もう何回もしてきた桃の遅刻に対して、初めてこんな風に素直になってみたから


でもね、グズグズしてられないって思ったから


「…分かった、もうしない、絶対しない」

「まっ、期待はしてないけど」

「わー、ひどーい!!」

「今は、桃がちゃんと来てくれるだけで良い…」


やっぱり、まだ少しだけ恥ずかしくって

私は後ろでワーワーと何かを言ってる桃を放って、ズンズンと歩いていく

遅刻厳禁でグズグズするのも厳禁、そんなテンポで歩いていく


「もー、キャップ待ってよー」

「やだ。早く来ないと置いてくよー」

「えー」


でもね、少しは待ってあげる

だって、桃が隣に居てこそだから

そのためなら、少しだけ待ってあげる