ずっと一緒だなんてそれは嘘で
それなら今も嘘になってしまう…
blue are still blue
もう9月も半ばだと言うのに真夏の様相が残る太陽
それでも本当の夏よりは幾分か涼しい
そんな今日、プールに足をつけて
まるで子どもの様にパシャパシャと飛沫を立てる姿は
妙に綺麗で視線が外せない
「冷たくない?」
「うん、気持ち良いよ。えりも来る?」
「遠慮しとく」
お昼過ぎ、授業を抜け出して舞美と2人で忍び込んだのは
体育館の裏にある人目にはつきづらいプール
最初はご飯を食べるだけと言う名目だったのに
なぜか本鈴がなったのも気にせず、舞美は堂々と居座っている
舞美と違って優等生じゃないウチは
先生に見つかった時の事を考えて木陰になっている隅の方に
体を縮めて隠れる様に座っている
何をするでも無く、ただ単に舞美を見つめている
「えりさー、進路決めたんだよね」
「うん、一応ねー」
「そっかー…早いなぁー」
舞美はプールに浸けた足先を見つめながら間延びした返事をする
皆からしたらウチが舞美のあとを追っている様に見える事の方が多いかも知れない
だけど、実際は逆のパターンを方が多くて
ウチがパッと決めた事でも、舞美はじっくりと考える事の方が多い
その理由は分かっている
ウチの方が舞美よりも出来る事が少ないからだ
消去法ではないけれど、出来る事を選んで行けば辿り着く事しかしない
加えて、ウチは色んな事にそこまで興味とか関心を持たない
だから、一度決めてから迷う事も少ない
舞美はそんなウチとは違って色んな事に興味を持って
そして、それを実行するだけの能力もある
だから、皆が思うよりも悩んでいるのをウチは知っている
「あー、私もえりと一緒にしようかなー」
だから、そんな事を言われると悲しくて
そして少しだけイラっとする
「て言うかさ、ずっと一緒がいいなー」
でも、それが本音じゃなくて、
弱音なんだって気付いてあげられるのもウチだけで
ちょっとだけ嬉しくなる
それでもウチは喜んでなんて居られなかった
「そんなの無理なんだよ」
「分かるけどさー」
「プールだって本当は青くないし、水色なんて色はない」
「…どういう意味?」
ウチは舞美の隣まで移動する
キョトンとした顔の舞美を無視して両手で掬える限りの水を掬う
そして、空に向かって目一杯まき散らした
「そして、最後はどこかに消えちゃう」
「んー、難しい…」
キラキラとした水滴がウチと舞美の上にパラパラと舞い落ちる
ずっと一緒なんて、そんなの幻で
ただの気休めの嘘でしかない
それでも、舞美がそんな事を言っちゃうのは
ウチには到底理解出来ない、そう思った
「だからさ、あんまり舞美にそう言う事言ってもらいたくない」
「そっかー…えり、何か冷めてるね」
「そうじゃないよ、ちょっとだけ舞美の前に居るだけ」
ウチがそう言うと、舞美はウチを見てほんの一瞬、寂しそうに笑って
また、目の前に広がる大きな水たまりを見つめる
そんな舞美の隣で、靴を脱いで舞美みたいに靴も靴下も脱ぎ捨てる
スーッと水に浸けた足にはヒンヤリとした感覚が走る
「なんだかんだで私たちって高3なんだねー」
「そうだねー」
「えりにまでそんな事言われるなんて思ってなかった」
「失礼な事言うなー」
ハハハと笑っているけれど
胸にモクモクと広がるのは雨雲の様な空虚
ちょっと前のウチなら、舞美みたいな事思ったのかな?
それは分からないけれど、
それだって空に放った水の様に散り散りになるんだろう
「でもね、えり…」
どれだけだろう、沈黙が続いたあと
舞美は水の様に透き通るほどの声で私を呼んだ
「んっ?」と返事をしようとしたその時だった…
バシャーン!!!
大きな音が聞こえたと思ったら、
体全体にビリビリとした感覚が生まれる
目の前には限りなく青の世界が続いている…
あっ、プールの中に居るんだ
そんな事悠長に思っていたいんだけど
本能がそうさせてはくれなくて
必死で手足を動かす命令が出ている
「ぷはー…ちょっと、舞美!!」
「やっぱり、プールは青いよ」
「…」
「私が今、えりと見たのは綺麗でどこまでも続く青だったよ」
水が滴っているからか、涙を流しているからなのかは分からないけれど
舞美は泣いた様な顔で笑った
「だから、今だけは嘘じゃない」
「…」
「だから、今はまだえりと一緒に居たい」
それでも強い意志の隠った舞美の瞳は
ウチの事をしっかりと捉えていた
だけど、ウチは上手く舞美に笑えなくて
舞美の頬を伝う水は青くなんてなくて
その向こうにある舞美の肌を透かしているだけ
それは何の色も無く、ただ零れ落ちて消えるだけの
ウチの心みたいでしかなかった