笑顔がどこか気になって
モヤモヤして出た結論はそういうこと
ぁまのじゃく
昼休み教室の後ろで女の子だけで集まって盛り上がる内容と言えば好きなモノのことで、
とりわけ好きな人の話だと周りの目も気にぜずキャーキャー騒いでしまう
だけど、私はそういう時はどこかクールを装ってしまう
「花音ちゃんは?好きな人?」
「いないよー、だって皆子どもっぽいじゃん」
「あー、確かに…でもさ、和田くんとか」
「無理、何考えてるか分かんないし」
皆が出す名前は大体決まっている
隣のクラスの和田くんに、サッカー部の岡井くん
あとは、各クラスで人気のある人
そして、絶対と言っていいほどあがるのが、あいつの名前
「じゃあさ、前田くんは?スラッとしてるし優しそうじゃん」
「一番無理。何か全体的に嘘っぽいし、ナヨナヨしてるって言うか」
「えー、私はそこが可愛いと思うけど」
私の意見を無視して、皆は前田くんの話題で盛り上がる
それをやっぱり冷静に聞いて、私は一人ため息を吐いた
「ほら、噂をすれば」
「あー、前田くん今日も可愛い〜」
可愛い、そう言われるのはあいつの白い肌と
クリッとした瞳がまるで女の子みたいだから
別にそういうところが嫌なんじゃ無いけど
その全てでニコリと笑っている顔を見るとモヤっとしたりする
* * * * *
そのモヤモヤはずっと前から続いていた
何て言ってもあいつと私は腐れ縁というか、幼馴染で
フツーに過ごしていたら、気付けばそこに居る様なときもあった
学校でだってそうだし、町内活動だってそうで
だから、皆みたいにあいつを見る事が出来ない
あいつが“かのんちゃん”から“福田さん”に呼び方を変えたとき
私も“ゆうくん”から“前田くん”に呼び方が変わっていた
中学校に上がった時にはそれすら呼ぶ機会は少なくなっていた
八方美人と言うしか無いあいつの笑顔がどうも納得いかなくて
モヤモヤし始めたのもその時だ
本人に直接言ったこともあるし、皆との会話も聞かれている
だからと言って困ったことは無い
私がそう思っていることに変わりはないから
それに、あいつにどう思われたって私は気にしないし
あいつもそうだろうから、本当に気にしてなかった
* * * * *
「あれー、和田は?」
ガラリと誰かが放課後の教室のドアを開ける
一人ノートに向かっていたけれど、スッと気を引き締めてしまう
だけど開けたのはあいつで、少し損した気分になってしまう
「知らない、居ない」
「そっかー、って福田さんそれ今日の数学?」
「うん、そうだけど」
ブレザーを着てないあいつはブラウスの白と肌の白さで軽く眩しい
モヤっとすると言うより、今は軽くイラっとする
私が欲しい様なモノを全部持っている様に思えるから
「見せて欲しいなー」
「…勝手にしたら」
私がどれだけ素っ気ない態度をとっても
あいつは笑顔を崩さないで、私の机の前に座りノートを広げる
そういうところ、嫌だって言ってるの知ってるくせに
「うわ、超解けてるじゃん」
「そんな難しくないし」
「えー、こんなの解けないって」
ブーブーとぼやきながらノートをペンでトントンと叩く
そんなの気にしないで私は問題を解き続ける
「…てゆーか、解かないなら帰れば?和田くん探してたじゃん」
「だって、教室で待ってるって言ってたからここいたら来るでしょ」
「あっそ…じゃあ、ペン動かせば?」
「うっわー、そういうこと言っちゃう?」
私の毒を含んだ言葉にもキラキラとしたトーンで反応する
いちいちそんなことに構っていられないのに
どうしても気になってしまう
「それにさ、僕は結構傷ついてるんだよ?」
「何が?」
「花音が“あいつの何が良いか分からない”とか“あいつは無理”とか言うの」
「…っ!!花音って言うな!!」
私がバシンと叩き付ける様にペンを机に置くと
あいつ、憂佳はコロコロと転がったそれが落ちない様に手を伸ばす
「良いじゃん、幼馴染なんだし」
「それでも…」
「それに、僕は…」
憂佳は言葉を飲み込んで、私に体を近付けた
と、思ったら触れた唇と唇
一気に何かが弾けた様な、そんな気分になった
「花音もう帰るっ!!」
「あっ、数学…」
「…知らない!!憂佳のせいでしょ」
「今、憂佳って言った」
「バカっ!!」
弾けたのはイライラとか、むかつきとかがメインなんだろうけど
きっと多分、他にも溜まっていたものがあって
それのせいで今、私は顔が熱くて、赤くなってるんだ
「花音」
ノートやペンケースを乱暴に鞄に入れて
走って教室を出ようとする私に憂佳がまた名前を呼んだ
「…何」
振り返らないのは、顔が赤いからじゃなくて急いでいるから
ドアに手を掛けたまま、返事をする
「数学、教えてよ」
「……そんなに分かんないなら花音の家まで来たら良いじゃん」
「やった!!じゃあ、後で行くね」
「勝手にしたら…」
憂佳が嬉しそうにしてるのなんて振り返らなくても容易に想像出来て
それが悔しくて、少しだけ嬉しくて
私は乱暴にドアを開けて教室を後にした
逃げる様に廊下を走るとチラリと視界の端に映った姿
「和田くん、自分のクラスで待ってるんじゃん…やっぱ、憂佳はバカだ」
フッと自然にもれた笑みは、あいつのことを考えてじゃない
そう言い切れないけど、嫌な気はしなかった