おかしなヤツとおかしなヤツ
真っ直ぐじゃないのは完璧じゃないから
a perverse person
最近目の前のヤツ、菅谷梨沙子に恋人が出来た
「イヒヒィー」
「…クリーム付いてる」
「どこ?みや、とって」
こんな梨沙子を好きになるなんてかなりの物好きだ
梨沙子は何て言っても、先ず幼い
今もクレープを食べてるだけなのに
口の周りはクリームでベトベトしてそうだし
テーブルの上は有り得ない量の食べこぼし
食べた量よりこぼした量の方が多いんじゃないかって思うくらい
「あんたさー、いい加減ちゃんとしなよ…はい、とれた」
「うーん、考えとく」
ただ食べるって言う単純作業すらまともに出来ないのだ
…て言うか、今まだ朝の10時前って言うのに、
クレープを食べるって言う神経と胃袋がまず理解出来ない
そんな梨沙子を好きになるなんて相当の物好きとしか思えない
しかし、そんな梨沙子曰くその人は完璧らしい
少し頭の悪い所があるらしいが、見かけも中身も格好良くて
それでいて優しくて、面倒見が良いらしい
「いつ愛想尽かされるか分からないよ、そんなだと」
「大丈夫、やっと実った恋だから」
梨沙子はその人に長年思いを寄せていたらしい
でも、伝える勇気が無くて、この間たまたま勢いで“好き”と口走って
それがラッキーで受け入れられて、今日に至る
色々端折ったけれど、そういう流れだそうです
はっきり言って、梨沙子の言う事を信じていいのかどうか…
まず、梨沙子が梨沙子なワケだ
だから、そんなヤツが褒める人が本当に凄いとは思えない
ウチが知る限り、そんな素晴らしい人間ではない
見かけの割に小心者だし、ビビリだ
どれだけ素晴らしくても、それだけで最悪になり得る要素だ
だから、梨沙子の言う事は信じられない
「それでもそんなあんた見たら百年の恋も覚めるって」
「えー…でも、大丈夫だと思う」
梨沙子はお得意のアヒル口で少し拗ねた様な表情を作る
加えて沈んでますよってアピる様にテーブルの上のグラスをグルグルと回す
…こうやっていじけた態度を見せる梨沙子
多分、こういう所が梨沙子の可愛い所なんだろう
そうじゃなければ、どこに魅力を感じるか分からないし
「て言うかさ、今何時か分かってる?」
「んー、9時45分」
「待ち合わせ何時って言ってたっけ?」
さっきまで沈んでたのが演技だったと主張してるくらいに
ピンピンでニコニコで、何て言うかハッピーそうな雰囲気しかなくなっている
ストローでブクブクと繰り返し、何食わぬ顔
「えっとねー、10時30分」
「まだ1時間近くあるじゃん」
「そだねー」
加えてのんびりとしてるし、マイペース過ぎる
こういう所見てると、やっぱりどこが魅力か分からなくなる
「何でそんなに早いのさ」
「待ち合わせに遅れるなんてタブーじゃん」
「…そっかぁ」
あぁ、分かった
梨沙子には常識ってヤツが通用しないんですね
そういう何にもとらわれない所が魅力なんですね
…やっぱり、物好きとしか言いようが無い
「それに私が先に居て、着いた時に安心してもらいたいじゃん」
「梨沙子で安心出来る訳無いじゃん」
とりあえず、梨沙子はウチが主張して来た通りのヤツで
だから、仮に梨沙子がそう思っていたり、考えていたとしても
無駄な妄想としか言い様が無い
「むー…でも、いつか安心させるの」
「へー、頑張ってね」
それでも一生懸命に相手を思うって言うのは難しい事で
そう言う点では凄く梨沙子はいい子なんだろう
だって、ここまで恋人を思っている人をウチは知らないから
そんな真摯な姿に打たれてしまうのは物好きなんかじゃなくて
当たり前の事なんだと思う
「うん、頑張るよ…頑張るっ」
だから、梨沙子は思いを寄せていた人と付き合えたんだろう
「さぁ、行こうか」
「あっ、待って」
だから、ウチは梨沙子の気持ちを受け止めたんだろう
* * * * *
「ねー、みや一個だけ聞いて良い?」
「何?」
「今日何時に来た?」
「……さぁ?」