いきなりに慣れるなんて無いと思っていたのに
案外慣れるものだと実感した
* * * * *
「で、何をするんですか?」
「んー、まぁ」
昨日、部活の帰りに夏焼先輩に誘われた
“とりあえず、明日16時にコンビニな”
それだけ言われて、内容も何も分からない様な会話で
それでも僕は言う通りにしていた
コンビニで落ち合った直後に「とりあえず、駅」なんて発表から、その通りにしている
* * * * *
「チワーッス、石川さん、ツグさんは?」
「ひっぱりだこよ」
「…今日は?」
「着せ替え人形にされてる」
駅に着いたら、駅ビルの中にある本屋に入った
そこそこの広さで、本や雑誌、CDも置いてあった
「ねぇ、先輩…何かあるんですか?」
「ちょっと待ってろ、ホレこれ貸すから、聴いてろ!!」
言葉を濁した夏焼先輩は僕にポータブルプレイヤーを貸して、どこかへ向かって行った
先輩はこの頃、僕にプレイヤーやCDを沢山貸してくれる
それはとても嬉しい事で、僕は結構幸せだった
* * * * *
「仕方ないでしょー、桃は人気者なんだもん!!」
「何でも良いから約束は守れよ!!時間は少ないんだから」
「みーやん、小舅みたい」
「あー、ウザー」
少し経ってから先輩が戻って来た
隣に居るのは誰だろう?男?女?
「あーいり」
「はっ、はい」
「お待たせ」
「いえ…」
「よしっ、行くか!!石川さん、お疲れ様です」
今日の先輩はいつもに増して、ワガママっぷりを発揮している
* * * * *
……
僕は放心状態だった
今まさに目の前でギターを持った先輩と、先輩のお友達さんがドラムを演奏している
僕が連れて来られたのは所謂“スタジオ”ってヤツらしい
「…どうよ?」
「すっ、凄いです!!」
「ねー、みーやん」
「ふぁい?」
「誰、それ」
「鈴木愛理くん、部活の後輩」
先輩はお友達さんと話している
僕は興奮状態で何にも出来ない感じで、ただ紹介されるがまま会釈をした
「桃は、みーやんの先輩で嗣永桃」
「初めまして…」
「で、桃も吹奏楽部だったから先輩だよ」
…ちょっと待って、この人年上?
えっ、だって、どう考えても一番幼い…
「ブリブリのプリプリだけど、ツグさん一応男だから」
「えっ…あっ、よろしくお願いします」
僕は本当に何にも分からないまま、進む方向に流されているみたいだ
* * * * *
「で、何で僕、今日連れて来られたんですか?」
「えっ、友達だから」
先輩はケロッと普通に言ってのけた
「ありがとうございます…」
「えっ、みーやんこの…愛理くんは新メンバーなんじゃないの?」
「えっ、えっ…」
話が見えないんですけど…
新メンバー?どういう事?
「ツグさん、言っちゃダメって」
「えー、でもベース捕まえたって」
「だーかーらっ!!」
「待って下さい!!」
居ても立ってもいられなくなって、僕は二人の会話を止めた
確認しなきゃいけない事は沢山ある
* * * * *
僕、ベースを弾く事になりました
先輩はこの…桃さんとバンドを組んでいるそうです
行く行くは精力的な活動をしたいそうです
「愛理くん、良いの?」
「はいっ、楽しそうですっ!!」
「ありがと、愛理助かる」
だって、僕は先輩に出会ってから生活がガラッと変わった
それはとても魅力的で、刺激的で
だから僕はOKする以外考えられなかった
「って、事で時間だし、行きますか」
「今日は歓迎会?」
「そっ、愛理門限とかある?」
「家に連絡したら大丈夫ですよ」
「よし決定!!」
* * * * *
スタジオを出て向かったのは近くのファミレスだった
二人とも凄く美味しいモノを食べる様な勢いだった
「でもさ、愛理弾けるの?」
「弾けません、て言うかベース持ってませんよ」
「あ〜あ、みーやんどうすんの?」
「…ツグさん、明日吉澤さん居るかな?」
「いつも居るよ、石川さんが居るから」
二人はまたあーだこーだ言い始めて
傍で見ていると、僕もこの二人の仲間になったんだって思った
「吉澤さんに借りよう、先ずは」
「それしかないね」
「愛理、明日もコンビニ集合で」
「はいっ!!」
そして、僕は面舵いっぱいにこれから向かう方向へ進もうと決意した
* * * * *
「じゃあ、また明日ね」
「バイバイ!!」
「お疲れ様です」
「あっ、愛理、ツグさん危なっかしいから頼むね」
「みーやんヒドイ〜」
「アハハ、じゃっ!!」
帰り道、先輩との分かれ道
僕は嗣永さんと同じ方向みたいで、一緒に帰る事になった
「愛理、だっけ?」
「はい」
「大丈夫?」
「えっ…」
嗣永さんは僕よりだいぶ小さくて、覗き込む様に話してくる
まるで女の子みたいだなとか思ってしまう
「みーやんってあんなでしょ、いきなりだから何事も」
「大丈夫ですよ、それなら」
「本当?」
「はいっ!!僕、先輩みたいな人初めてで戸惑ったけど、ヒーローです」
そう、先輩にヒーローが居る様に、僕のヒーローは先輩なんだ
「愛理はみーやんみたいな事言うね」
「だって、先輩に…」
少し口ごもってしまう
言いたい事があるけれど、上手く言葉に出来ない
「まっ、みーやんをけしかけたのは桃なんだけどね」
「へぇ〜」
「みーやんの好きだった人の為にギター教えたの」
…あれ?何か違う、先輩が言ってた事と
「あっ、みーやんから聞いてないんだ」
「…はい」
「まぁ、最初は不純な動機だったんだけど、今では最初の事なんて覚えてないんだよねぇ〜」
何か僕の知らない部分の先輩は、いつもの様子とは違うみたいだ
「まっ、基本みーやんはヘナチョコなんだよ」
「ヘナチョコ…」
「そっ、見掛けと違ってガキっぽいって言うのかな」
「でも…それでも、僕にとってはヒーローですよ!!」
「うん、そうだね…あっ、桃こっちだから、じゃあね」
「あっ、さようなら…」
一人になってからずっと考えていた
バンドをやっていく不安よりもワクワクの方が強くて
気付いたら駆け足で家まで帰っていた
* * * * *
その日僕が見た夢で僕たち3人はそれぞれに楽器を掻き鳴らし、観客の皆を興奮させていた