授業の時間
ツグナガさんは黒板の方を見つつも、横目でチラリと他の所も見る
こくんとうな垂れるサラサラの髪の毛
いつもはそこまで気にならないのに、今日は何故だか気になる
黒板から教師が離れ、教室を歩き始める
真っ先に向かったのはツグナガさんが正に見ていた所
「おい、シミズ起きろ」
「ふぇっ、あっすみません…」
かつんと教科書の角がその頭を軽く叩く
軽く叩かれたのだけれど、その衝撃にビクンと頭を上げたのはシミズくん
普段は見る事の出来ない光景に教室中は笑い出す
「勉強頑張ってるのは分かるが、授業聞かないと意味ないぞ」
「はい、すみません」
シミズくんは爽やかに対処し、机の上のペンを取った
そのシミズくんを見届け、教師はその後ろの少年の頭にさっきとは違い強く教科書を打つける
「いったー」
「矢島はいい加減、授業に参加しろ」
「だって、眠いもん」
「だってじゃない」
教室は更に笑いに包まれる
ツグナガさんも一緒に笑うのだけれど、皆のとは少し違う
どこか暖かく、優しい笑い
それは確かに、シミズくんにだけ向けられていた
* * * * *
「ねぇ、えりかちゃん」
「なぁにー、またくだらない話?」
「ちがうー」
ツグナガさんが話しかけるが、ウメダさんは手に持った漫画から目を離さない
そんなウメダさんの態度が気に入らず、ツグナガさんは漫画を奪い取る
「何さー」
「ねー、桃恋しちゃったかも」
「へー、そりゃ良かった」
「えっ、興味ないの?」
「全く、ウチ自分の事で手一杯」
ウメダさんはツグナガさんの漫画をとられたので、机の上に伏せる
しかし、これ以上の事をするとツグナガさんが五月蝿いだろうと思い
視線だけはそちらを向けた
「桃ね、恋したんだよ」
「うん、で誰?それ言わないと興味湧かない」
「えー、言えないよそれはぁー」
「あっそ、じゃあ黙って」
クネクネと体を動かし、もったいぶるツグナガさんに
愛想を尽かしたのかウメダさんはどうにかして漫画を取り戻そうとする
それを無視して、自分の世界にどっぷり入り込んだツグナガさんは
一人照れ続けている
「えりかちゃんには言っちゃおうかなー」
「早く言え」
「怖いぃー」
「良いから言え」
ウメダさんはそろそろ本気で怒るよ、と言った雰囲気で睨む
それに少し怯んだのか、ツグナガさんは落ち着いた態度になる
「あのね、シミズくん」
「やっぱり」
「えー、やっぱりって何?」
「最近なんか仲良いじゃん」
ウメダさんは何も面白い事が起こらなくて態度を変えない
そんなウメダさんを見ていたツグナガさんはがっかりする
「桃的にはかなり重大決心をして言ったのに」
「ウチじゃなくてシミサキ本人に言えば褒めたよ」
「まだ言えないよー」
ツグナガさんはまたクネクネと動き出す
ウメダさんはその隙をついて漫画を取り戻す
「あっ」と一瞬ツグナガさんが叫んだが、
それはこの教室においていつもと変わらない風景だった