「えーっ、ほんと?」
「うん…りーちゃんには嘘吐かないよ」
教室で一つの机に向かい合って座る愛理と梨沙子
大声を上げる梨沙子に愛理は慌ててシーと静かにさせる
愛理は教室をぐるりと見渡し、一度落ち着いてからまた話始める
「梅田先輩から好きって言ってくれて…」
「へぇー良かったじゃん」
「うん…」
「じゃあ今日みやたちも呼んでお昼食べよ、メールしとくから」
梨沙子が携帯を取り出し、両手で軽やかにメールを打つ姿を見て愛理は思い出す
えりかの連絡先を聞いていなかった事を
昨日はえりかの自宅に行ったものの、ただ何をするでも無く…
と言っても、それなりに進展があったから付き合い始めた訳なのだが
愛理はえりかの事を何一つ知っていない様な気分になってしまう
「メアド、知らない…」
「えっ、愛理なんか言った?」
「私、先輩のメアドとか電話番号とか聞いてない!!」
愛理は一大事件の様に思い、大声を出してしまう
さっきは梨沙子の声が大きいと自らが怒ったのを忘れてしまった様に
いつになく取り乱す愛理を見て梨沙子はとりあえず落ち着かせようとする
「愛理お昼、お昼に聞けば良いよ、お昼に!!」
「教えてくれるかな?」
「付き合ってるんだから、そういう心配しなくて良いよ…多分」
梨沙子は苦笑いで愛理を出来る限り宥める
普段は結構、自信家な部分がある愛理だが
一度不安になってしまうと、とことん不安になるまで落ち込んでしまう
梨沙子はそんな所も愛理の良い所だと思っているが
他の人からは少し扱いづらいと言われる事もしばしばある
「ホントに大丈夫だと思う?」
「うん、だって愛理だもん」
梨沙子は根拠の無い様な言葉で愛理を励ます
さっきよりは少し笑顔になる愛理だが、まだ不安そうな顔をしている
梨沙子はもうどうしようもないと思い、苦笑いしか出来ない
「まぁ、とりあえずお昼頑張ろう、ねっ?」
「うん、分かったよ、りーちゃん」
愛理はやはり不安そうではあったが、出来る限りの笑顔で梨沙子に向けて微笑んだ
* * * * *
「えりか、今日休みだよ」
「「えっ?」」
「いや、だから休みだって言ってんだけど」
雅の言葉に愛理と梨沙子は目を丸くさせて驚く
決戦は昼休みだと意気込んでいた二人にとって
えりかがいないと言う事実は拍子抜けでしかない
梨沙子は愛理を心配し、愛理は見るからに意気消沈
そんな二人を見て、理解出来ないと言った様子で雅は首を傾げた
「昨日、先輩雨で濡れちゃったから風邪引いたんだよ」
「それなら、俺なんて傘さしてなかったけどピンピンしてるよ」
「みやはバカだから」
「俺がバカなら、えりかは大バカじゃん」
愛理をよそに、雅と梨沙子は喧嘩を始める
えりかが風邪を引いたのではないかと思うと愛理は責任を感じずには居られない
「ってか、風邪じゃないんだけどね」
「本当ですか?」
「うん、定期検診だから」
「定期検診?」
風邪じゃないのなら一安心だと思った瞬間、次の不安要素が振って来る
“定期検診”なんて健康そのものの愛理にはあまり馴染みが無い
風邪なんかよりも余程重大に思える
だから、尚更不安になってしまう愛理の顔は蒼白だ
「あぁー、それもそんなに重大じゃないから安心して大丈夫だよ」
「…ホントですか?」
「うん、あいつ高1の夏に何か事故って入院してんの」
「えっ…」
「それの検診…だから、俺とクラス一緒だけど、年は1個上なんよ」
雅がさらりと言ってのける
それは愛理に落ち込む隙を与えないくらいで
愛理はただ聞く事しか出来なかった
「て言うか、何でそんなにえりかの事聞くの?ちょー心配してるしさ」
「みやの鈍感」
「えっ、何それ?ちゃんと教えてよ」
雅がまた梨沙子と喧嘩を始める
やはり、愛理はそれを気にする余裕が無く
頭の中ではえりかの事ばかり考えていた
「放課後、家に行こう…」
「メアドなら俺が教えようか?」
「あっ、良いです…自分で聞きたいんで」
愛理は雅の申し出を断り、うんと頷く
頭の中は既にえりかの事で一杯だった