「……」
無言で雅は今居る場所を見渡す
初めて入った丘の上の大きなお屋敷
雅はこの場所に呼ばれてしまった理由を思い出していた
* * * * *
「雅くんだよね?」
「えっ、あっ、はい!!」
屋敷に荷物を運ぶのはいつの間にか雅専門の仕事になっていた
その日もいつも通り荷物を運び、サインをもらっている途中だった
いきなり、屋敷の住人ー後になって知るのだが、愛理の母に声を掛けられた
戸惑う雅に対して、愛理の母はニコニコしながら話し始める
「あなたが愛理に花火を見せて上げたんでしょう?」
「あぁー…はい、確かにそれは僕です」
「あれから愛理が毎日楽しそうでね、本当にありがとう」
いきなり礼を言われた雅は、恥ずかしさに顔を掻く
そんな雅を見ながらまだニコニコしたままの愛理の母は話を続ける
「愛理がね、手紙ばかりじゃなくて話がしてみたいって言っていたわ」
「はぁ…」
「あの子ホラ…家から出られないから、友達って言う存在が居ないのよ」
「あの、僕はその…愛理ちゃんの事、友達って言うかなんて言うか…」
雅はモゴモゴと口籠りながら返事をする
雅は愛理と知り合いになりたいと思っていた
だから、愛理の為に何度も手紙を書いたし、愛理に色々なものを見せてあげたいと思っている
ただ、友達なのだろうか?と言う疑問が生まれた
そんな事を問われた事が無かったから、考えもしなかった
それが今、漠然と目の前に現れてしまった
「フフフ…今度遊びにいらっしゃい」
「えっ?」
「愛理もあなただったら安心でしょうし、喜ぶはずだわ」
「あっ、はい…」
* * * * *
「あのっ!!」
雅が色々思い出していると、しびれを切らしたのか愛理が声を掛けて来る
愛理は雅の目の前で困った表情をしている
それは雅も一緒で、愛理に向けた笑顔が張り付いているようでぎこちない
「迷惑でしたよね、母が強引で…」
「いやっ、全然!!」
雅は焦って、首をブンブンと振りながら否定する
迷惑ではない、寧ろ嬉しいのだが、慣れない場所で緊張は隠せない
愛理に話したい事が沢山あったはずなのに、雅の口からは何も出てこない
それに対して愛理は不安になってしまい、堂々巡り
二人はまた黙り込んでしまう
雅は申し訳ない気持ちでいっぱいになる
「嬉しかったよ」
「へっ…」
「ここに招待されて、嬉しかったよ」
一生懸命にそう伝えると愛理は堅くなっていた表情を崩し、雅もそれに安心して笑顔になる
それは愛理の笑顔が気付かないうちに雅にとってとても大事なものになっていたから
だから、ただ笑い合うだけでも二人にとっては大切な事
雅はやっと緊張が解けたのか愛理に向かって笑顔を向けたまま話し始める
「あのさ、話す事いっぱいあるんだ」
「えっ?」
「今日、愛理に話す事いっぱいあって…だから、だから来たんだ」
困り顔だった愛理は、今度は雅驚いたと言った表情で見る
そんな愛理に雅はやはり優しく微笑みかける
その雅の笑顔は満足だと言う様にも見える
「愛理に色々聞いてもらいたくってさ…話、聞いてもらって愛理に笑ってもらいたくて」
「…何で、ですか?」
「何でだろう?わっかんないけどさ…初めて愛理に会った時から愛理の笑顔可愛いなって思ってたから」
雅は一瞬だけ真剣な顔をして愛理を見るが、すぐにヘラっと笑う
そんな雅に対して、愛理はドキドキを隠せない
さっきから緊張していてドキドキしていたのは確かだが、
それとは違った鼓動が混ざっている
それを確かに感じ取っている愛理は更にドキドキが増して来る
「だから、今日ここに来れて良かった…凄い豪華な所だから緊張したけどね」
だけど、雅はそんな愛理に気付く事無く話し続ける
目をキラキラとさせていて、それはまるで自分の事を必死で相手に知ってもらいたい様に見える
愛理はそんな雅を見て確信する“私はこの人の事、好きなんだな”と
そう思うと、自然と感じていたドキドキを受け入れる事が出来る様になる
「嬉しいです…その、私あなたと話せて凄く嬉しいです」
「あっ、ありがと」
「ありがとうを言うのは私の方ですよ…あなたが居てくれたから、私笑えてます」
愛理は八重歯を見せて満面の笑みを作る
幸せとしか言えないその表情は、さっきまでの堅かった雰囲気が嘘の様に思える
そして、それは確かに二人が一歩ずつではあるけれど
お互いに歩み寄っている事を実感する
そんな、小さな恋物語はまだ始まったばかり