Little By Little

Little By Little

 

「だから今日はもんじゃだって!!」

「えー、肉が良いよ、焼き肉」


千奈美と雅が何を食べるかで揉めている

メンバー皆でご飯を食べに行こうという話になったのはついさっきまでいた楽屋での事

佐紀はそれを見ながら、どうやってこの輪の中から抜け出そうか考えていた


別にメンバーと居るのが嫌なワケじゃない

ただ、今日は抜け出したかった

それに理由が無いワケでは無いけれど、

無いのかと問われたら“ある”と答える事も出来る


「ごめん桃、今日行けなーい」

「えー、何で?」

「んー、ちょっと用事」

「そっかー」

「うん、ごめん…じゃあね」


桃子はそれだけ言うと、皆に手を振る

佐紀はポカーンとそれを見るが、先に進む皆の後に続いた


ノソノソと歩きながら、佐紀は“抜け出さなきゃなぁ”と思う

それは佐紀が桃子に向けて送ったメールのせい


“一緒に帰ろう”ただ、それだけ書いて寄越したメールのせい


何でそんなメールを送ったかと聞かれたら、どうしてかよく分からない

ただ、メールを送った時、佐紀は確かに桃子と一緒に居たいと思っていた

だが、そのメールに桃子からの返信は無かった

だから、佐紀はそれを“No”だと受け取った


それなのに桃子は皆の輪から抜け出した

それも有耶無耶な理由で

だから、佐紀はそれを“Yes”だと思った


「キャプテンどっちが良いー?」

「ほぇっ、何が?」

「もんじゃと焼き肉」


ボーッと桃子の事を考えていた佐紀に千奈美が投げかけて来る

正直、どっちでも良い、と言うか早く謝って抜け出そうと考えている

佐紀は苦笑いをして、千奈美を見る


「ごめん、私も今日は無理だ」

「えー、キャプテンもー」

「今度は行くからさ」

「もんじゃ派一人脱落ぅー」


佐紀の返答に落ち込む千奈美と喜ぶ雅を見ながら、佐紀は足を止めた

それに気付いた茉麻や友理奈は手を振って、別れの挨拶をする

それに気付き梨沙子も手を振って来る

佐紀はその皆にバレない様に、一歩一歩後ずさり

皆が見えなくなった瞬間に後ろを振り返り走り出した


* * * * *


「おそーい」

「いやいやいや…」


佐紀は桃子が皆と分かれた場所まで出来る限りのスピードで走って戻った

予想通り桃子はそこでブラブラと突っ立っている

その姿を見た佐紀は“何、無防備に立ってんだよ”って乱暴に思ったが

そんな事より、ちゃんと居たと言う事に安心した気持ちの方が強かった


「佐紀ちゃんがメールしてきたじゃん」

「それっ、桃が返事くれないからじゃん」


桃子が口を尖らせながら佐紀に悪態をつく

佐紀もそれには反論するが、今はそんな事をしている時じゃ無いと判断する

そんな佐紀とは対照的に桃子はまだ文句を言い続けている

佐紀はそんな桃子を見ながら、ハァーっと大きくため息を吐く


「…それより、ホラ」

「えっ?」


佐紀は少し乱暴に桃子の手を引く

桃子はそれに驚いた態度を見せるが、佐紀の手を握り返す

佐紀は少し顔を赤らめ、照れた様な雰囲気になるがすぐに平然とした態度に戻る


「どっか行こう」

「うん」

「せっかく、二人になったんだし」


佐紀の言葉に桃子は深く頷いた

佐紀はそれを見て、繋いだ手が離れない様に更にしっかりと力を込めた


それは小さな勇気でも、二人にとっては偉大なる勇気だった