イコール

答えが一緒だとしてもそこまでの道のりが違う

それさえも嫌だと思うくらいに、私はあなたが好きなんです


イコール


「ハイ」

「へっへー舞美ありがとっ!!」

「どーいたしまして」


ヘラヘラっと笑ってノートを受け取るえりの手を私は無言で眺めてた

スッと伸びた指、案外大きな手のひら

指輪の一つでもあったら、私の気持ちに諦めがつくのに

そんな事は全くない


「もー、この際付き合っちゃおうか?」

「話が飛躍し過ぎ、意味分からないから」

「えー、何回も“付き合おう”って言ってるじゃん」


視線をえりの顔に移すけど、私は表情を変えない、と言うよりも無表情で切り返す

えりもヘラヘラとしたままで、気持ちが読み取れない


真剣に言ってるのなら、私の返事に多少は落ち込むだろうし

それこそ、ヘラヘラとした雰囲気にはならないと思う

だから、私は素直に『うん』と頷けない

だって、私のえりへの気持ちは真剣そのものだから

遊びで付き合える程軽い気持ちじゃない


例え、えりが何度“付き合おう”と言って来ても素直に喜べないのが悲しい

私はこんなにも好きなのに、えりに絶対の信頼を置けない

それは私が卑屈なのかも知れないけど、どうしようもない事で


「私は…」

「舞美は?」

「そんなに簡単に何度もそう言う事言えない」


えりの顔から視線を外し、また手に視線を戻す

小さい頃、私の手を優しく握ってくれたあの時から随分と大きくなったその手

いつになったら、しっかりギュッと私の手を力強く握ってくれるんだろう?

いつになったら、不安になれないほど私の心をギュッと話さないんだろう?


そんな事を思ってもヘラヘラとしていて、誰にでも優しくて

それでなくても格好良いって言われているえりを独占するなんて至難の業


報われる事が無いと分かっていても、だからこそ強くなる思い


「じゃあ、俺どうしたら良い?」

「知らない、自分で考えたら」

「分かった、考える」


えりはヘラヘラしたまま

私はそれが腹立たしい

私の気持ちをそんなに簡単なものにしないで欲しい


「…て言うか、そんなに嫌われてんなら無理って事だよね」

「えっ…?」

「ごめん、今まで…」


えりはヘラヘラしたまま…なのに、泣きそうな表情

やっぱり、ほら…その程度だったんだよ

えりは軽い気持ちであんな事言ってたんだよ

えりが私の前から居なくなる


あぁ、さよなら…


* * * * *


それから何日も過ぎた

えりとは全く喋っていない

本当にさよならだったんだ、本当にえりの気持ちは軽かったんだ

イライラするのは何でだろう?

あんな気持ちでも受け入れとけば良かったと思う後悔だろう


何でなんて思わない

納得してしまえば良いんだ、それだけなんだ


でも、視線がえりを追っている

私の世界にえりがいるって確認してる

あぁ、さよならなんて何で思ったんだろう


「舞美、ご飯食べよ?」

「あっ、桃分かった…」


机の上の開いていたノートを閉じる

何度かえりに貸した事のあるこのノートはもう私の手からえりには渡らない

机にしまって、私の思いも深くしまい込む


桃の席の隣へ移る

窓際の日がよく当たるその席は、私の気持ちと正反対で輝かしい

私もずっとえりの事考えてられないなって気持ちになろうとしている


「でね、佐紀ちゃんがね今日クレープ食べに連れて行ってくれるの」

「良かったねー、私も行きたいなぁー」

「舞美生クリーム嫌いじゃん」

「そだねー」

「それに桃と佐紀ちゃんはデートなの!!デート!!」


桃の話を適当に聞きながら、相槌を打つ

桃が幸せそうなのは私も嬉しいけど、どうしてもそんな気分にはなれない

何でこんなに僻みっぽいんだろう


「あー、舞美…」

「んー」


浮かない気分でお弁当の卵焼きを突いていると桃が大声を出す

ただでさえ桃の声は大きくて響くから、私はそれにびっくりして顔を上げる

桃は窓の外を見ながら、手で私を呼んでいる


「何?」

「ほら、見てえりかくん居る、えりかくん」

「…それで?」

「何かこっち呼んでる!!」


桃が一生懸命に私を引っ張る

出来れば、えりの事なんて見たくも聞きたくもないのに

それでも、やっぱり私はえりが好きみたいで

体がえりの方を向いてしまう…


窓から見下ろした所に一人立っているえり

私の知っているえりと違って、ヘラヘラした特有の軽さが無い

真剣なえりなんて久しく見ていなかったからドキンとなる


「舞美ー!!」

「…」

「付き合おー!!」

「…」


えりは大声で顔を赤くしながら話し続ける


「軽いって言われるの分かるけどさ、仕方ないじゃん」


教室の皆も窓側にやって来てえりを見る

私は恥ずかしくて、仕方が無い


「ちょっと、えり止めてよ!!」

「無理、俺舞美のこと好きだから…好きだから一緒に居ると嬉しくて笑っちゃうし」

「ホントえり、話ならちゃんと聞くからっ!!」

「好きだから一緒に居ると好きが溢れちゃうし」


えりは少し拗ねた様な表情で言い放つ

でも、どうだと言わんばかりのえりはいつもより格好良く見える


「だから、舞美が嫌だって言う事はしたくない」

「もう、分かったから…分かったから」

「でも、好きだから…それだけは言わせてよ」


えりはさっきまでの表情を崩して、ヘラヘラって笑った

それが今まで見て来たものよりも、可愛くてえりらしいと思えて

私は涙を流しながら笑った


桃にポンポンと背中を叩かれる

桃を見ると凄く優しい表情をしていて、一生懸命に背伸びをして頭を撫でてくれる


「良かったね、本当に良かったね」

「うん」

「えりかくんも格好良かった」


私は元気に頷くと桃も嬉しそうに頷いた

教室の皆も祝福ムードになっていて、私はまた涙を流した


「舞美!!」

「えり…」


息を切らしながらえりが教室に入って来る

私の目の前までくると肩を掴んで、真剣な瞳で見つめて来る

それはもう私に断る事をさせない、そんな強い意志が宿っていた


「付き合お」

「…うん」


この瞬間を、私はずっと待っていた

私の気持ちとえりの気持ちが綺麗にイコールで結ばれる

その瞬間が何よりも凄い奇跡