多分それは独占欲で好きのしるし
だけど、それは酷く遠回りしてしまう
echoes
疲れ切った足取りは、ぺたんぺたんと音を鳴らす様に地面を蹴る
大声を出してはしゃぎ切った雅は喉がからからで休める場所を探していた
「あっ、梨沙子、たちだ…」
家路にあるおしゃれな雰囲気のカフェ
学生でも入りやすく、普段は元より試験前などは学生が集中する場所
そこで休もうと思い中を見ると見知った顔が並んでいる
学校の後輩にあたる子が二人と、幼い頃から知っている子が一人
雅は店員にその席に運んで下さいと頼むと、自らはすぐにそこへ向かった
「何してんの?」
「あっ、夏焼先輩」
「みやだー」
雅に気がつき声を出したのは二人
仲が良いのに丁寧に敬語を使うのは愛理で
その愛理とは対照的にフレンドリーな雰囲気が満載なのが千聖
その二人に軽く挨拶をすると雅は空いている席に当然の様に座る
「梨沙子、挨拶は〜?」
「今、忙しいのっ!!」
雅の方を一回も向かずに机に広げてあるノートを一生懸命見続けている梨沙子
そんな梨沙子を不満に思って、文句の一つでも言ってやろうと思った
が、そのタイミングで店員が雅のカフェオレを持って来て一時中断
「ありがとうございます」と小さく礼を述べた雅は、カフェオレのカップを口に運ぶ
「何それ、何の勉強?」
「今度のテストの勉強です」
「りーちゃんずーっと寝てたからノートとってないんだよねー」
梨沙子の代わりに答えた二人に雅は「ふーん」と相槌を打つ
横目でチラリと梨沙子を見やるとさっきと変わらずせっせとノートを写している
雅にとって梨沙子が一生懸命に頑張っている姿は少しだけ可笑しくて仕方が無い
それは小さい頃から梨沙子が雅の後ろにトコトコと着いて来ていた頃から変わらない
勉強は得意ではなかったが、どちらかと言うと初めての事でもそつなくこなせる雅にとって
梨沙子が時間をかけてゆっくりとこなしていく姿は理解出来ないとまでは行かないが
どちらかと言うと笑いの対象になっていた
今もそれはそれは面白くて仕方ない
こういう時は心の底からからかいたくなる
「梨沙子本当に要領悪いよねー」
「……」
「これで家帰って遅くまでやったらまた授業中寝るんじゃないのぉ?」
「……」
雅は小言の様に梨沙子にズバズバと言う
それに梨沙子は反応せずに黙々と作業を続ける
「そんなだから愛理たちにも迷惑かけるしさー」
「…みや、うっさい」
「うわー、そんな事言える立場ですかぁ〜?」
梨沙子が反撃を始めたと同時に雅は面白くなってくる
語彙が多い方ではないが、梨沙子にだけは口喧嘩でも何でも負けた事は無い
それは決して心からの嫌みではなく、ただ楽しんでいるだけ
雅がそんな事を言うは梨沙子にだけ
二人の関係をあまり知らない周りの人からしたら冷や冷やものだが
慣れてしまった人にはそうでもない
だから、愛理たちはそう気にしないが時々便乗して梨沙子をからかおうとする
「でも、でもっ!!みやよりはちゃんと勉強してるもん」
「そんなウチは今日もカラオケとか行っちゃって楽しんでますけどねぇー、あー楽しかったなぁ〜」
「…」
「まっ、梨沙子は」
雅はフフンと鼻を鳴らして梨沙子を見る
梨沙子は悔しそうな表情を一瞬だけ見せるが、直ぐにノートに向き直る
雅はそんな梨沙子の頭をポンポンと叩き、無言で格の違いを見せつける
それを愛理は苦笑いを浮かべて見ていたが、その隣で千聖はニコニコとしている
それはまるでイタズラを思いついた子供の様に
「りーちゃんってさぁー」
突然話し出した千聖に三人は顔を向ける
千聖はそれを気にせずに話し続ける
「何も出来ないって言うかさぁ、みやも言ったけど要領悪いって言うか」
「千聖、そんな事言っちゃ…」
愛理が千聖を制止しようとした瞬間だった、ガシャンとガラスが音を立てる
雅が手に持っていたカップを乱暴に置いた
愛理はアチャーと思うが、それはもう遅い
こうなってしまった雅を止める事は愛理には出来ない
「千聖さぁー、あんたが言える事じゃないでしょ」
「みやだって言ったし事実じゃーん」
「そういう問題じゃなくて、あんたが言える事かって言ってんの!!」
雅は声を荒げて千聖を責める
それはあまりにも矛盾した行為であって、千聖は顔を顰める
愛理は「またか…」と小さく呟いてしまう
「ごめんなさーい」
「今度あぁいう事言ったら本気で怒るからね」
「分かりましたぁー…」
雅は素直に言う事を聞く千聖に納得して、
またカップを持ち上げて一気に飲み干した
「梨沙子、帰るよ!!」
「えっ、えー」
「あっ、りーちゃんノート借りてて良いから」
「うっ、うん…」
雅が梨沙子を捲し立てる様に急かす
梨沙子は慌てながらも雅の後に続き店を出て行く
一瞬だけ愛理たちを見て、ごめんねと手を合わせたが直ぐに雅を追いかけた
* * * * *
「ふぅー…って言うか、千聖もいい加減さぁー」
「仕方ないじゃん!!だって、みやが面白いんだもん」
残された二人は、嵐の後の静けさの中で大きくため息を吐く
千聖はさっきまでの顰め面が演技だったと言わんばかりに愛理に笑顔を向けた
しかし、愛理はさっきからの苦笑いを崩せずに居る
「…まぁ、面白いんだけどね」
「りーちゃんにだけだよね」
「うん、ホントに…」
愛理と千聖は顔を見合わせたまま一瞬笑いが漏れる
「「素直じゃないよねー」」
* * * * *
「ちょっと!!みや待ってよー」
「はぁ?あんたが急げば良いでしょ」
雅はかなりの早足で歩く
その後ろを梨沙子は一生懸命に着いて行く
突然、雅はその梨沙子を振り返ってはっきりとしない表情を見せる
「あのさ、梨沙子…」
「なぁに?」
「あぁ言う事言われたら、ウチに言いなよ」
雅はフッと笑い優しい表情を梨沙子に見せる
それは梨沙子を凄く落ち着かせるもので、梨沙子の中にフッと暖かい気持ちが生まれる
「言われた…」
「えっ、誰に?」
「今日、みやに…」
梨沙子はいたずらに笑い、雅は困ったと言う風に表情を崩す
梨沙子はそれを見て満足げに雅に近付き腕を組む
「それはっ、それは…」
「良いよ、みやになら」
「えっ…」
「みやは私の事ちゃんと分かってくれてるから、ちょっとは悲しいけど本音じゃないって分かってるし」
雅は何とも言えない気分になるが、
その隣で嬉しそうに微笑む梨沙子を見ると何だかどうでもよくなって来る
「みや、早く帰ろっ!!」
「うん」
今度は梨沙子が雅を引っ張る様な形で歩き始める
茜空には二人の声が響く
それはどこまでも続いていく様に高く清く響いて行った