美味しいケーキはどうですか? 8

「あっ、おかえり」

「…うん、ただいま」


昼休み

委員会が終わって教室に帰ってきた私はりーちゃんの隣に座って5限目の準備をしながら思い返す


…私の嫌な予感は的中した

えりかちゃんの家で会った帰りには既にそんな予感がしてた


“委員会、上手く出来るかな…”


案の定って感じだった

私が当番の週が回ってきた

有原先輩は朝からちゃんと来ていたし、仕事だってちゃんとしていた

私だってそれに倣って朝は仕事をした


朝だけならそれは黙々と仕事をしている真面目な姿だって思えたかもしれない

だけど昼休みもずっとだ

そして何より今日はもう金曜日

1週間一緒に仕事をしてきたのに…


私より大体先に来ている有原先輩が既にカウンター仕事をする

私は「本、並べますね?」って、一応確認してから仕事に取り掛かろうとする

有原先輩はそれに頷いた…頷くだけ


放課後なんて

無言のまま2人並んで本の整理

少し窮屈なくらいの沈黙だ


「ねぇ、りーちゃん」

「ん〜?」

「有原先輩ってさ…」

「面白いよね!!ウギャーって叫ぶんだよ、リアルに」

「へっ、へぇー…」


りーちゃんは今までの有原先輩の面白エピソードを話してくれる

どれも私の知らない先輩だ


「何か、私そんな所見たことないけど…」

「あー…だって先輩みや以上に人見知りっぽいもん」

「人見知り以前の問題な気がする」

「そっかなぁ?」

「うん…なんか私苦手かも」


簡単に判断したらいけないと思う

だけど、どう考えても私にだけ態度が違う気がする


「えー、いい人じゃん」

「りーちゃんにはそうでも、私にはそうじゃない!!」


私はりーちゃんに強くそう言い放った

りーちゃんは少しだけ首を傾げて言った


「まぁ、愛理にも仲良くなれない人はいるって事だよね」

「ホント、そうだよ!!」


りーちゃんは少し不思議で不満そうな表情をしていたけど

私はやっぱり有原先輩の事を考えると、あまり良い気分はしなかった


* * * * *


事件は放課後に起こった



どうせ有原先輩が仕事を終わらせてるだろうし、私が行っても何にも言ってくれない

私は極力、一緒にいる時間を短くしたい


だからではないけど、HRが終わってから図書室に行くのに、いつもより時間をかけた


図書室の鍵は思った通り既に開いていて

私はいつも通り、扉をそっと開ける

カウンターには鍵が乗っているけど、有原先輩の姿はない


返却台もカウンターの横に置いてある

当然、返却された本は棚に戻し終えてあるのか1冊も無かった


仕事は全部終わってしまったみたい

ただ鍵だけある

閉め忘れかなんかだろう


有原先輩にも案外抜けた所があるんだ、私はそう思って鍵を手に持った


それが失敗であり、ある意味成功だったのかもしれない


* * * * *


夜8時を過ぎた時だった

携帯電話が元気よく鳴った

久しぶりに聞くこの着信音はえりかちゃんからの電話を知らせてくれた


「もしもーし」

『今すぐ出てきて!!』

「えっ、どういう意味?」

『いいから、今ウチ、愛理の家の前居るから早く!!』


えりかちゃんは何故かすっごく焦っていて

気のせいなのかも知れないけど、声に少し怒りが混じっている様にも思った


私はとりあえず薄手のカーディガンを羽織って外に出た


外に出ると言われた通り自転車にまたがったえりかちゃんが居た


ポンポンと後ろの荷台を叩いて、座れの合図をする

私は何がなんだか飲み込めなくて首をかしげた


「良いから乗りなさい」

「あっ、うん…」


やっぱり、えりかちゃんは少し機嫌が悪いみたい

だから、私は話しかけづらくて

自転車が向かう所がどこか分からないまま、えりかちゃんの背中に掴まっていた


着いた所は学校

夜の学校なんて初めてで

しかも、何で連れて来られたか分からない私は、ビクビクしながら校門をくぐった


「栞菜が、今まで学校に居たんだって」

「えっ…」

「図書室にずっと居たって…出れなかったってさ」


えりかちゃんはそれだけ言うと黙ってしまった

私も私で何も言えなくなってしまった


二人して何も喋らないまま靴箱まで歩いた

そこには先生と有原先輩が居た


「先生、お久しぶりです」

「あれっ、有原の保護者…そうか、いや分かった…梅田すまんな」

「いえ」


先生はえりかちゃんと少し話すと職員室へ帰って行った


* * * * *


私は何にも言えなくて

心は罪悪感で埋めつくされそうで

本当は謝りたくて

でもタイミングが掴めない


それは私に原因があるんだけど…

でも、隣ではずっとえりかちゃんが有原先輩に怒鳴っている


「大体、栞菜はね!!分かってんの?」

「あー…うん、ごめん」

「ごめんじゃなくて、分かってんのって聞いてんの!!」

「分かってる…鈴木さん、ごめん」


えっ…何で私が謝られてるんだろう

確実に私が悪いのに…


だって、私がちゃんと確認しないで図書室の鍵を閉めたから、先輩は今まで学校に居たんだ

て言うか、先輩喋った…


「いやっ、あの、私が閉めたから…ごめんなさい…」

「愛理は悪くないよ、栞菜の態度が誤解招くから」


えりかちゃんはそう言って、先輩を少し強めに小突いた

先輩はその勢いで転けそうになりながら、一歩前に出る


えりかちゃんと先輩のやり取りはどこかコメディタッチで面白かった


* * * * *


「じゃあ、ウチ愛理送ってくから」

「うん」

「栞菜はちゃんとご飯食べなさい」

「うん」


えりかちゃんたちのマンションに着いて、有原先輩とはさよならをした


えりかちゃんは押していた自転車にまたがって、行きと同じように私を後ろに乗せた


私はさっきからずっと、何をしたら良いのか、何を話したら良いのか分からないままだった

とりあえず、えりかちゃんの言うがままに動いてる


「愛理…」

「…なぁに?」

「栞菜さ、分かりづらいと思うけど嫌なヤツじゃないから」

「…うん」


えりかちゃんは私の心の中を覗いてるんだろうかって疑問に思った

私は確かに有原先輩の事を良く思っていないし、それ以前によく分からない


「まぁ、喋らない栞菜が悪いから愛理がどう思っても仕方ないけど」

「うん」

「愛理がもし今日の事を悪いってちょっとでも思ったなら、少しだけ協力してあげて」


私はこの時全然知らなかった

私がどれだけ子供で、強がりで、何も見てなかったって事を