美味しいケーキはどうですか? 7

ここで少し栞菜の話をしよう


栞菜は中学校に入ってからの知り合い

今では良きパートナーみたいな存在

…多分私の大好きな人


栞菜の印象は誰に聞いても同じ答えだった


“よく笑って、騒いでるのに、あまり喋らない”


どこか矛盾していて、どこかおかしい、そんな印象

私もそんな印象を持っていた


かなり仲良くなった今だから栞菜の声をよく聞くけれど

最初は全く喋らなかった

まぁ、それは私にも責任はあるんだけど…


でも、あんまり話したくない、関わりたくない

そんな風に思うくらい出会いは最悪だった


栞菜の何が嫌だったかって聞かれると


“愛想が悪かったところ”

“何にも言ってくれなかったところ”


って即答すると思う


* * * * *


最初に栞菜を見たのは中一の二学期、図書委員会で


一学期に学級委員だった私は二学期もって思っていたけど

他にもやりたい子が居たから譲って図書委員になった


学級委員に比べて仕事は楽だって言われたけど、学期中に二度、当番の週がある


朝、学校に着いたら図書室の空気の入れ替えと簡単な掃除

昼、ご飯を食べたら図書室で本の整理とカウンター仕事

放課後、HRが終わったらまた本の整理をして掃除


これを二人一組でやる


当番の週はほとんどが仕事に時間を取られてしまう、って一学期の委員の子が教えてくれた

委員全員の顔合わせの時にもそんな説明を聞いた


「じゃあ、くじ引きで当番の順番決めるからひいてー」


放課後の図書室

紙を小さく切って出来た簡素なくじ

中に書かれた番号が当番を受け持つ順番になる


私の番号は4番

引いた時に何か嫌な数字だなとか思って


「4番誰だったー」

「あっ、私…」

「クラスと名前は?」

「1-Bの鈴木です」


自分の名前を告げた後、もう一人は誰だろうと周りを見渡す


小さくチョコンと手をあげている人


「もう一人は…あっ、居た」

「……です」


小さな声、聞き取りづらくて

名前はボードに書き出されるまで分からなかった


1-B 鈴木 2-C 有原


でも、いつの間にか私と栞菜の名前は並んで居た


* * * * *


「あっ、お疲れー」


委員会が終わって待っててくれたりーちゃんの待っててくれる教室に帰る


ヒラヒラと手を振るりーちゃん

りーちゃんの向かいにみやが居て

みやも一緒に帰るのなんて久しぶりだなぁとか思った


「愛理これから暇?」

「うん、今日は何にもないよ」

「何かえりかちゃんところに大量に桃とかフルーツがきたらしくて

 食べに来ない?って誘われてるんだけど」


桃…フルーツ…

聞いただけでウキウキするような単語

暇だし、みやとも久しぶりだし、食べられるし


「うん、行く…行きたい!!私も良いかなぁ?」

「愛理も誘えばってえりかちゃんが言ったから、大丈夫」

「ホント?じゃあお言葉に甘えちゃおうかなぁ〜」

「うん、じゃあ行くか」


* * * * *


えりかちゃんの家は私たちの街には似合わない高級マンション

いかにもセレブな人が住んでいますって言う雰囲気が出ている


私は結構えりかちゃんの家に行くのは楽しみで

浮かれていたらりーちゃんに

「愛理の家も十分豪邸じゃん」

って言われた


そんなことを話しながら向かっていたら

もう目の前にはえりかちゃんの家があった


「いらっしゃ〜い、愛理久しぶりぃ」

「へへ、久しぶり」


えりかちゃんはそんなマンションの様にセレブみたいな高飛車な感じは無くて

優しくて、綺麗で、面白くて、格好良い

私は凄く憧れていたりする


「お母さんがケーキも作ってくれたから、それも食べて」

「やった!!」


玄関にまで甘い、良い匂いがしている

ウキウキしながらリビングにお邪魔すると、先客が居た


思いがけない再会

再会と言っても互いに認識してたワケじゃなくて

ただ“あっ…さっきの人”くらいの接触だった


* * * * *


「あー、栞菜も来てたんだ」


居間に入ってすぐ、声を上げたのはみやだった

それに続いてりーちゃんも声を上げた


「有原先輩だー」


2人はバッグを上手い具合に投げ出して

有原先輩の所へ駆け寄る


私は少し困りながら立ち止まってしまう

何で2人とも?知り合いか何か?


「愛理は会った事なかったっけ?」

「あー、うん…」


頭の少し上の方からえりかちゃんの声

私は振り返って見上げながら返事をする

えりかちゃんの表情はいつもと変わらずに優しそう


「有原栞菜っての、隣の家の子」

「へぇー…って言うか、委員会一緒です」

「あっ、そうなんだぁ〜」

「確か、そうです」

「じゃあ仲良くしてやって」


今まで何度かえりかちゃんの家に来たことあったのに

最近引っ越して来たばっかなのかなぁ?なんて思いながら私は居間に入った


居間は既に甘い匂いが漂っている

私はウキウキし始める


「ほらケーキ、早く食べよ?」

「うんっ♪」


えりかちゃんは準備をし始める

私はそれを手伝おうとえりかちゃんに続いてキッチンに向かう


みやたちは有原先輩と3人でテレビに釘付けでゲームをしてるみたい

それを見てるとえりかちゃんが言った


「ほら、愛理は来なかったじゃん、夏休みの…」

「私が旅行行ってた時の?」

「それ!!その時栞菜も居てね」


夏休みにみやたちはえりかちゃんに誘われて皆で海に行った

私はタイミング悪く、家族旅行に行っている時で


それにしても3人はかなり仲良くなっているみたい

みやと有原先輩がやっているゲームを見ながら、りーちゃんはワーワー騒いで

挙げ句にはみやのコントローラを取ろうとして揉めてるみたい


「バカだよねーあの2人」

「えっ…」

「本当、仲良すぎ」


えりかちゃんはなんだか嬉しそうに眺めて、棚からお皿を取り出した

私はやっぱり3人が気になってはいたけど

「はい」と手渡されたお皿を受け取って、綺麗に並べた


…さっきから何か不思議な気分

何でだか分からないけど、違和感がある気がする


「愛理、あのバカたち呼んで」

「うん」


だけど、私は早く食べたいって気持ちからそんな事はいいやって思って呼びに行く


「準備出来たよ」

「「わぁーい!!」」


みやとりーちゃんは本当に元気良く返事をして立ち上がる

なのに有原先輩は黙ったまま私を見た後

自分が使っていたのとみやたちが使っていたコントローラを綺麗に端に寄せてから立ち上がった


…あっ、何か嫌だ


本能的にそう思った

片付けるのは全然問題無い

寧ろ、みやたちもすべきだと思う


ただ、少しくらいは反応して欲しかった

何にも言わない、開けるのも面倒だと言わんばかりに口を閉ざしている


* * * * *


私たちはそれなりに楽しい時間を過ごしたんだと思う


みやとりーちゃんはどこにいても楽しめる天才だと思うし

えりかちゃんはそんな2人を見て大笑いしてるし

私だって楽しかった


でも、ここに来てからずっと有原先輩の態度を気にしてしまう

有原先輩だってえりかちゃんみたいに2人を見て笑ってる

時々はそれに混じって騒いでる


なのに、まだ1回も私は口をきいてもらってなかった