私のお気に入り

部活に行こうと急ぐ廊下

目に映ったのは空飛ぶ箒

その持ち主はとても綺麗な魔法使い


私のお気に入り


「うわっ、舞美かぁびっくりしたー」


校舎の裏側、壁に寄りかかって座るみや

その手には何故か箒が握られていて、それを乱暴にブンブンと振り回す

私はそれを校舎内から見たから空飛ぶ箒に思ってしまった


「箒が勝手に動いてたから気になって」

「勝手に動く訳ないじゃん」


私は上履きのまま、窓を開けて外へ飛び出る

いきなり、隣に着陸した私にみやは大声をあげて驚いた

私も箒に驚かされたから、これでおあいこって所だろう


「舞美、部活行かないの?」

「行くよ、でもまだ行かない」

「エースが遅刻したら先生泣くよ」

「エースじゃないから、大丈夫」


みやの隣にそのまま私も座り込む

地面はヒンヤリと冷たくて、スカートから伸びた足には良く無いなぁと思う

みやはまだ、箒をブンブンと振り回している


「みやは何してるの?」

「ちょっと、それ!!聞いてよ、あの中澤先生がさー」


みやは急にいきり立って話し始める

時々、みやはこんな風にスイッチが入る

それが何かは未だに分からないけど、カチッと一度スイッチが入れば

電池が切れるまで話し続ける

それは結構長い時間かかる


「…で、ウチがちょーっと、多分0.5秒くらい遅刻したの」

「うん」

「それだけで、“夏焼、あんたいい加減にしーや”とか言ってきて」

「うん」

「“まっ、今日は罰として校舎裏の掃除なー”とか言うの」


私はそれに相槌を打つだけしか出来ない

でも、それは決しておざなりにではなくて、案外真剣だ

だって、みやは聞き手の反応を思いのほか、しっかりと見ている


「酷くなーい?」

「う〜ん、酷い。みやは悪くない」


でしょー、なんてみやはプンスカと怒りながらさっきより大きく箒を振り下ろす

“そんなに乱暴に扱ったら壊れるぞー”とか、“私に見つかったみたいに他の人にも見つかるぞー”とか

そんな心配をするけど、みやには言わない


だって、そう言う事が起こった時のみやの反応が見たいから

“もー、何で言ってくれないのー”って、またスイッチが入って、話し出すみやが見たいから


私が何でそこまでみやのスイッチを入れたいのかって言うと

そんなみやが好きだからだ


黙っていればかなり綺麗だ

ただ綺麗なだけじゃなくて、華があるとでも言うのだろうか

とりあえず、黙っていたら近付き難い程のオーラがある


それなのに、話し出したら全然違う

どことなく愛嬌があって、人なつこい

ギャップってヤツなんだろうけど、それが私のツボだったりする

とにかく、みやは私のお気に入りってワケだ


そんな事を思いながら、みやを見る

まだ一人熱く喋っているけど、その横顔は本当に綺麗だ

涼しげで、華やかで、少し鋭くて、愛らしい


「はー、ほんっとに、もーヤダ!!」

「仕方ないよ、頑張れ」

「ありがとっ…って部活、行かないの?」


みやが私を見て来る

やっぱり、お気に入りだとまじまじ感じる


「みや…」

「んっ?」


みやの唇に人差し指で軽く触れて宣言する


「みやは私のお気に入りだぞ…」

「えっ?何それ?」

「さぁー、部活行こう」


驚いてしどろもどろしているみやを置き去りにして、私は走り出す

あぁ、何であんなにも愛おしいのだろう


それはやっぱり私のお気に入り…

みやは可愛い、私のお気に入りだから


そんな魔法をかけられたから