学級日誌の1ページにサラサラとペンを走らせる
今日、日直だった私は1日の最後の仕事である日誌を早いところ済ませて、家に帰って漫画読まなきゃ
日付、私の名前、1日の他愛ない出来事などを書いて、明日への連絡を書き込めば終了
もう何度かしてきていたから慣れたものだ
得意のイラストなんか添えてみたりして、明日日誌を書く友達への配慮も忘れない
−ガラガラピッシャン!!
一人で教室に残って日誌を書いている訳だから、鼻歌なんて歌って気持ちも穏やかな訳で
だから、今聞いた騒音は空耳だと思いたい訳で
…だけど、視界の端に映る息が上がっている人を見たらそんな事言えない訳で
空耳と、幻覚が一緒に起こる場合は大体現実だって、どこかで聞いた気がする
でも、そういう現実ほど目を逸らしたくなるのが普通の子だと私は思う
無かった事にする為に私は一度目をぎゅっと瞑って、恐る恐る幻覚の方へ顔を向ける
…
……
………
今日の占いは1位だったはずなのに、恋愛運がかなり良かったのに、そんなの全然当たってない
私の目に映るのは息が切れ切れで、少し睨みを効かせた目付きの人で
今までの経験から言って、私はこういうタイプの人と仲良くなれた試しが無い
要するに、その人は私にとっては未知の存在なのだ
「こっち見ないで、どうぞ書き続けて!!」
「えっ…?」
「良いからっ!!」
その人は少し強めの口調でそう言って、ロッカーの陰に身を潜める
私は何か怖い事をされたら困るから、言われた通りにするしかない
だけど、恐怖からか手の震えが止まりません…
−ガラガラ
今度はさっきと違って、まずまず丁寧な感じに教室のドアが開く
そこにいたのは生徒指導の中澤先生で、私の事を見ると小声で“なんや、鈴木か…”と呟いた
「なー、有原見んかった?」
「有原?えっと…誰ですか?」
「あー、知らんか…知らんならえーわ」
先生は困った様に頭を掻いて「鈴木もはよ帰りーな」って言って、帰って行った
私はずっと引きつったままの笑顔でそれを見届ける
…先生、ごめんなさい
嘘は吐いていないんです、有原なんて人知らないんです
ただ、誰か予想はついています
それは確率100%の予想です…
「ありがと」
「いえ、本当に有原…さんなんて知らないんで」
「あっそ…じゃあ私が中澤さんに追われてる有原、有原栞菜です」
スカートをパシンとはたいて、立ち上がりながらそう言う
私を見つめたその目はさっきまでの剣幕とは違って、ニコリと優しい感じ
私は何故か分からないけどボーッとそれを見たまま、止まってしまう
すると、手をスッと差し伸べられた
「よろしく、えっと…鈴木さん」
「えっ、あっ…はい」
キュッと握ってくれたその手は少し冷んやりとしていて
私の手の温かさと混ざって、少しぼやっとなる
それは凄く気持ちが良くて、私は自然と笑みがこぼれる
「あー、可愛い」
「えっ?」
「さっきまでずーっとしかめっ面だったから…笑った顔、めちゃくちゃ可愛い」
空耳だと思いたい、幻覚だと思いたい
目の前の有原さんは所謂破顔一笑状態で、
さっき私に“可愛い”って言ったのは嘘じゃないよと知らせている様で
私は一気に顔が熱くなるのを感じた
「てかさぁ、中澤さん怖いよねー…ちょーっと、着崩してただけなのに…って、大丈夫?」
有原さんはヒラヒラっと私の目の前5センチくらいの距離で手を振る
私はその手を眺めた後に、我に返って有原さんに視線を向ける
有原さんはやっぱり笑顔で、最初に感じた恐怖なんてどこかへ消えてしまって
今感じているものが、何なのかを悟ってしまう
「じゃ、私は見つからないうちに帰るんで」
「あっ、はい…」
ヒラリと体を翻し、教室を出ていく姿を眺めたまま私はやっぱり動けなかった
元の通り、私一人に戻った教室
空耳も幻覚も無くなったのに、どこか落ち着かない
有原さんが去ったのに、スカートからだらし無く出されたシャツの白がちらつく
それはとても鮮烈に…
「あっ、今日のラッキーカラー、白だった…」
恋愛運抜群の結果だった今朝の占い
占いってあながち間違っていないん、と私は日誌に一言そう書き添えた