無題

思い出すのは手を引かれて二人で歩いた道とか街とか

思えばずーっと前から好きで、今も好きで、これからも好きなんだと思う

だけど、もう手を引いてもらって歩く事は無いんだと分かっている

 

それでもずっと好きなまま

簡単に嫌いになんてなれないって知っている

 

* * * * *

 

パタンと携帯を閉じる

それでも目を閉じればさっきまで眺めていたメールが映る

 

“ごめん、今日用事があるから一緒帰れない”

 

たったそれだけのメール

今までも素っ気ない様なメールは何回もあったけど、

それだけでも嬉しかったし、何でも無い様なメールを返していた

 

でも、今はもうそんな事も出来ない

どうせ、桃の事なんて見てくれていないから

みーやんの目には他のモノもいっぱい映っている

 

さっき教室の窓から見つけたみーやんは凄く急いでいて、走ってた

走っていながらもどこか嬉しそうな顔をしていた

そんな姿でも見れると嬉しくて、でもみーやんがあんなに急いでいた理由を考えると悲しかった

 

普段は案外めんどくさがりのくせに、あんな表情をしてどこかへ行った

どこに行くかなんて分からないけど、誰に会うかくらい分かっている

みーやんをあんなに走らせるのなんて、一人しか居ない

直接その子を知っている訳じゃないけど、みーやんが楽しそうに話すのを聞いた事がある

 

そんな事桃にしか話せないからって…

桃は親友だからって…

ずっと一緒に居てくれたからって…

 

「ばーか…」

 

ぽつりと呟いても届く分けない

それは離れているからとかじゃなくて、近くに居てもそうで

桃の気持ちなんて伝わらない

 

桃の方がずっと隣に居て、見つめ続けていたのに

一緒に笑って、一緒に泣いて、色んな事をずっと一緒に感じて来たのに

そんなのは簡単に崩れてしまう

 

…それも一瞬で

 

それなのに桃の気持ちは崩れないし、変わらない

今でもぎゅっと優しく手を握ってくれる事を祈っている

叶わないって分かっているのに、思いは強くなる一方で

いつも一筋涙を流してしまう

こらえてもこらえても出てしまうものがある

 

それを見たらみーやんはどんな顔をするのかな?

困った様な顔で、いつもみたいに桃を慰めてくれるのかな?

 

そんな事を考えていると好きって気持ちと、嫌いになれないって気持ちが溢れて来て

桃はやっぱり涙をこらえる事が出来なくて

小さくみーやんって呟いて、涙を流した


* * * * *
 
* * * * *
 

確かに顔は可愛かったけど、むすっとした様な表情で

人見知りの激しいウチにとって彼女の第一印象は良いものではなかった

だけど本当は人なつこくて、ふにゃりと優しく笑うって知った

その笑顔にウチはいつからか癒されていて、今までに無い様な気分になった

 

本当にそうかはイマイチ分からないんだけど、これは皆に思う“好き”とは違っていて

特別なんだって、そう思う様になっていた

 

だから、ウチは“公園で待ってる”なんてメールを勢いで送って、

教室から飛ぶ様に出て行った

 

「はぁ、はぁ…まだ来てない…?」

 

ウチの高校とアイツの通っている中学校の中間地点にある公園の噴水の前

ウチが指定したこの場所は待ち合わせには最適の場所

 

時間は特に決めていなかったけど、やっぱり先についておきたい気持ちがあって

学校からずっと全力疾走だった

 

「みや、待った?」

「あっ、梨沙子…待ってない、さっき来た」

「どっか行く?」

「あー、いや話す事あって」

 

梨沙子はキョトンとしてウチを見る

仕種の一つ一つが可愛くて、暖かい気持ちになれる

 

公園をぶらっと歩いて、見つけた空いてるベンチに腰掛ける

当然梨沙子が隣にいるんだけど、それが何か自然な感じがしてウチはくすぐったかった

 

「あのさ、えっとー」

「うん」

 

中々本題に入れないでさっきからえっとばかり

そんなウチに対してもニコニコと頷いてくれる梨沙子

少しだけ勇気をもらえた気がして、ウチが口を開こうとした瞬間だった

 

「みや、好き」

「えっ…」

「好き」

 

ウチは限界まで目を見開いて梨沙子を見る

梨沙子もウチを見て、そしていつもの様に微笑んだ

 

「みやとこうしてるの凄く好き…何があるってワケじゃないんだけど、好き」

「あっ、ありがと…」

「何かね、凄く好きなの」

 

梨沙子はイヒヒって笑って足をブラブラさせた

ウチは言おうとしてた事を言われてしまって、呆気にとられてしまったけど

それはそれで嬉しくて、小さく笑った

 

「ウチも好き、梨沙子とじゃないとこんな感じ出ないと思う」

「うん」

「これが、言いたかった事」

 

* * * * *

 

この後何があったってワケじゃないんだけど

ウチらはただボーッと座ったままで少し肌寒くなるまで二人で居た

 

「帰ろうかぁ」

「うん」

 

そう言って立ち上がり自然と梨沙子の手を握った

その温かさは今までに感じた事の無い様なもので

これからウチはこれを大事にして行くんだと誓った

 

* * * * *

* * * * *

 

みやと手を繋いで歩いた道は忘れない

ずっと心に残るモノだって思った

 

それと同じであの子の悲しそうな笑顔も忘れないと思う

そして、初めて覚えた悲しい気持ちを私は消せないままでいる

 

* * * * *

 

みやに好きって言った

みやが好きって言った

それだけで嬉しかった

そうしたら、みやが手を握ってくれた

少し痛いと思うくらいの強さが嬉しくて、私は笑った

 

「みや」

「んっ?」

「何にもない」

「うん」

 

特別…そんな言葉が浮かんだ

それがなんだかくすぐったくて、私は一人微笑んだ

 

「あっ、桃だ…」

 

みやが見ている方に一人の女の子

背が低くて、私とは違って幼い感じの子

それでもみやと同じ制服を着ているから年上なんだって分かった

 

「みーやん…」

「今帰り?」

 

みやに手を引かれて、その子の方に行く

だけど、私の足は重くて、何かを拒んでいた

さっきまでの笑顔がサーッと消えた

 

「あっ、これ…って言うか、この子が梨沙子」

「へっ、へぇーそうなんだ」

 

その子も私と同じなのか、どこか怯えた様なそんな雰囲気

みやは気付いていないのか、いつもと変わらない笑顔で話している

 

「桃はね、ウチの幼馴染で高校も一緒なんだ」

「あっ、うん」

「よろしくね、梨沙子ちゃん…」

 

ニコリと微笑まれるんだけど、悲しそうで私は少し怖くなった

私か、その子かどっちが先に泣き出すのか

そんな事を考えてしまった

 

「桃、今から帰るの?」

「うん」

「じゃあ一緒帰る?」

 

みやは気付いていない

私は気付いてしまった

その子も分かってる

 

「…ごめん、寄る所あるから」

「えー、そっかぁ…じゃあ今度一緒帰ろう」

「うん…でも、梨沙子ちゃんに迷惑かかるよ」

「えー、多い方が楽しいじゃん」

 

みやはどこまでも純粋で、それがとても悲しくて

何よりも鋭く、私とその子を傷つける

 

握られたままの手は嬉しいはずなのに

私は涙が出て来そうで、この悲しみが消える事が無い

そう悟った私はみやの手を離さない様に、ギュッと強く握りしめた