慣れた手つきで窓を開ける、この季節にしては少し冷たい風を体に受けて気合いを入れる
誰も居ない部屋に向けて「行ってきます」と告げる
靴を履いてストンと外に出る
この頃楽しくて仕方がない
それはいつも演奏を聞きに来るあの子のお陰だと思う
あの歌を聴いた瞬間、やっと見つけたと思った
まるで小鳥のさえずりの様な歌声
可憐で綺麗、儚さのある歌声
「欲しいなぁ〜、あれ…」
そう思うとウチは自然と走る速さを速めた
* * * * *
ポンポンと自由に鍵盤を弾く
曲では無く、ただ自由に、本当にただ弾くだけだ
「こんばんわぁ…」
「こんばんわ」
やっと来た、そう思うとウチは少しドキドキした
やっぱり、この声が欲しいと思う
「自由に歌って良いから」
「でも、私あなたの演奏聞きたいんです」
「う〜ん、じゃあ歌いたくなったらさ、歌って」
部屋の端と端で話す
人よりかは少しばかり耳の良いウチだから聞こえるくらいの声で会話をする
それでも、ウチは確信している
これは天使の歌声、ウチが作る曲を生かすにはこの子しか居ないって
彼女が来た日から弾いている曲を弾く、名前も無い短い曲
夢中になりつつも、耳は彼女の方に傾けている
歌ってくれるだろうか、と淡い期待を胸に持ちながら
* * * * *
結局、彼女は歌わなかった
でも、ウチの演奏を聞いてくれているならそれは嬉しい事だ
「やっぱり、素敵です…あなたの演奏」
「フツーだよ、って言うか未完成だし」
未完成だ、君に会ってからそうなった
歌詞は無いけれど、歌が欲しいと
「そうなんですか?」
「うん、これには歌が入る予定だから」
目の神経に全集中を集めて彼女を見る、少しの表情の変化も見落とさない為に
「考えさせてもらって良いですか?」
「何が?」
「歌…歌う事」
うん、思惑通りだ、上手く行った
嬉しさで叫んでしまいそうだ
「あの時間大丈夫ですか?」
「あぁ、うん…もう行く」
うっかり、このまま朝までここに残りそうだった
そんあ事をしたらアイツに怒られてしまう
「じゃあ、また明日もお願いします」
「うん、また」
少し開けたままにしておいた窓を大きく開け放し、飛び出る
やばい、このまま飛べそうな勢いだ
ウチはこの時はまだ知らなかった
少しずつだけど、ウチが崩れ始めている事を