Parallel 1

私の通う中高一貫の全寮制の学校

寮は学校の周辺に3棟あり、私の居る寮はその中でも一番広い敷地面積を誇り、また設備が整っている

5階建てで1階には全寮生が集まっても余裕のある集会場や、食堂がある

部屋は生徒一人一人にあり、例外が無い限り誰かと一緒に生活する事は無い


その寮の1階、一番奥にはずっと長く伸びた廊下がある

今は使われる事は無いけれど、昔はそこを行った所にある部屋が開放されていて寮生が集まったって聞いている


今、私はその部屋の前に来ている


* * * * *


少し前、夜に突然ハッと目が覚めた事があった

目を閉じても眠りにつくまで時間がかかる私は、飲み物でも飲もうと思って食堂に向かった


電気の点いていない廊下を非常灯だけを頼りに歩く

暗い所はあまり得意ではない私は早く済ませようと思って早足になる


その時だったポーン、ポーンと音が聞こえる、ピアノの音だ…

私は刹那、鳥肌が立った

私の知る限り、この建物にピアノは無い


でも、ずっと鳴り続けている


怖がりな私は嫌な方にばかり考えてしまう

逃げようと思うのに、動けない


私はその場に立ったまま、ずっとその音を聞いている

最初は独立した一つの音が何度も何度も聞こえるだけだったそれが、次第に曲になっていく


「綺麗…」


その演奏の美しさにいつの間にか恐怖を忘れ、音の方へと足を向かわせていた


* * * * *


長く続く、今は使われていない廊下を私はひたすら歩いていた

どれだけ距離があるか分からないその廊下を一歩ずつ進んでいく度に、ピアノの音がはっきりして来る

近付いている事実だけで、私は更に足を進めた


廊下の突き当たり、ピアノの音はここから聞こえているみたいだ

目の前の大きな扉を見上げる

ノブに手を掛け、ギシッと軋んだ音を立て扉を開ける


窓から差し込む月の光だけしか灯りが無い部屋

電気は点いていないけれど、やはりピアノがそこにはあるようで演奏は続いている


…この寮は大体、扉を入って右手側に電気のスイッチがある

そこに手を伸ばした瞬間だった


「ごめん、電気は点けないで」

「えっ、ごめんんさいい」


声がしたのはいきなりだった

その声はさっきまでの演奏に似た、とても澄んだ声だった


「ここなら部屋には聞こえないって教えられてたんだけどなぁ…起こしてごめん」

「いえ、私ただ目が冷めて、食堂に来たらその…演奏が聞こえてきて」


どんな人が演奏しているのか顔は見えないけれど、私はその時はもう恐怖を一欠片も持っていなかった

ただ部屋は広くてピアノがあり、弾いている人の声もとても綺麗だと言う事実を何度も心の中で唱えた


「おっと、そろそろ時間だ…」

「あっ、あの…」

「なぁに?」

「次はいつ来ますか?」


何でそんなことを聞いたのか分からないけれど、私は聞いてしまった

私はその人の演奏に心を奪われていたんだ


「毎日…毎晩居るよ」


そう簡潔に告げると、その人は何も言わずに窓を開け、そこから素早く出て行った


「明日も来なきゃ…」


これは私と音楽の天使との出会い

そして、少し悲しい話の始まりだった