確かに朝から空模様は微妙だった
だけど、ただでさえ遅刻ギリギリに登校するウチが
天気予報なんて気にしているワケがないし
飛ぶ様に家を出るから、傘になんて気が回らない
授業中に窓から見る空もぐずついてはいたものの、何とか持ちこたえていた
急いで帰れば雨に降られる事はない、大丈夫…そう思って6限まで授業を受けた
最悪なのはその最後の授業、6限を受けた後だった
『放課後職員室に来る様に』と、先生に呼び出された
服装違反、遅刻の常習、サボり、成績…
思い当たる節はある…寧ろ、あり過ぎる程ある
これは長い事になると容易に想像出来た
その通り、先生の話は終わりが見えて来ない程に長かった
先生とどうにか視線を合わせないで、尚且つ反省している様に見せるには、
下を向いて素直に返事するしかなかった
そうやって色々考えて早く終わらせようとした努力は、嫌な形で報われた
―ドーーンッ!!
いきなり轟音が鳴り響く
雷鳴だ…
それと同時にバリバリとガラスが振動する
びっくりしてウチが外を見た時には、ザーッと言う音が耳に届いていた
「…まぁ、雨も降ってきたし、今日はこれで終わり」
「…あっ、はい、すみませんでした」
とりあえず、頭を下げてはみたものの、反省なんてしてないし
“あんたのせいで雨降ってきたじゃん”と毒づいていた
廊下に出て鞄を持つ
直ぐ様、その鞄に手を突っ込んで携帯を取り出す
メールが1件、ちぃからだ…
どうせ“先に帰ったよ、ごめん”みたいな内容だろう
見なくても分かる気がしたから、開かないで携帯を鞄に戻した
さて、どうしようか…なんて考えていたのに習慣とは怖いもので、足は下駄箱へ向かっていた
* * * * *
仕方がないから上履きを脱ぎ、ローファーを突っ掛ける
屋根が付いているギリギリまで行って、雨脚を確認
まぁ、そんな事しなくても分かるくらいの強い雨
どうする事も出来ないから、敷いてある簀の砂を払って
そこに座って弱まるのを待つことにした
* * * * *
ザーッとその音しか聞こえない
雨脚は一向に弱まる気配がない
さっきと変わったのは、傘が無くて可哀想な生徒がウチだけじゃなくなった事
鞄を肩に掛けて、ずっと立ったまま雨を見ている
横顔しか見えないけれど、かなり綺麗な顔立ちである事が想像出来た
…だからと言って、どうにかなるワケじゃないんだけど
こうも事態が変わらないと何もかもが面倒で軽く鬱になる
「止まないなぁー…」
溜め息混じりの独り言
雨の音に掻き消されるはずなのに、隣の子がウチの方を振り向いた
人見知りのウチにとってはタイミングが悪い事に、視線がぶつかってしまった
その子は予想通り綺麗で、それでいて可愛い顔立ちだった
でも、何か表情が無いって言うか、感情が読みにくいって言うか…
多分、その子も人見知りか何かだろうとウチは思った
* * * * *
また少し時間が経った
時間だけが過ぎていく、それ以外に変化は無い
もしかしたら、少し弱くなっているかもしれないけれど、それはウチに分かる様な変化では無かった
ウチと隣の子しかここに居ないと言うことは皆は傘を持っていて、既に帰ったと言うことだろう
“皆偉いなぁ、天気予報見てるんだ”ってバカな事を考えていないと、気が紛れない
「雨、止みませんね…」
頭の中でちぃが毎朝ニュースを見てる想像をして一人でニヤけていると、いきなり声が聞こえた
びっくりしたけれど、それはバレない様に隣を見上げる
困ったって言う表情で雨を見ながら、そう呟いた…
呟いたんじゃない、ウチに話しかけたんだ
「……最悪ですねー」
ウチは正直にそう答えた
それからポツポツとではあったけれど、言葉を交わした
会話と呼ぶには粗末な感じで
本当に言葉を交わしたとしか言えないものだったかも知れない
“天気予報を見るか”とか、“折り畳み傘が嫌いだ”とか、その程度のどうでもいい様な話
大きさで言うとかなり小さな会話だった
ウチにしては初対面の人とここまで話せたのは
世界新記録でギネスに載るレベルだったから少し不思議な気持ちになった
「あれっ、夏焼お前まだ居たの?」
校舎の方から、ここで足止め喰らってる原因を作った憎き先生の声がする
と同時に、違うもう一人の先生の声が聞こえる
「菅谷さん、そこに居たの?親御さん心配なさって今電話かかって来てたわよ…
お迎えに来てもらいましょう…」
ウチはそっちを無視して先生に傘が無いと伝えた
先生は置き傘取ってくると言って、走って戻って行った
もう一人の先生も隣の子に待っててねと言い、戻って行った
* * * * *
傘の先を外に向け、一気に傘を開く
雨がそれを叩く音は激しく、雨はまだまだ強いと教えてくれる
傘を差してもローファーが濡れる…なんて文句が無いワケじゃないけど
せっかく貸してくれたんだから使わないワケにはいかない
「じゃあね、お母さん来るまで頑張って」
「あっ…」
「んー?」
もう会うことは無いだろうと思って、軽く別れの挨拶をしたのに
それなのに何か言いたげにウチを見る、その子は小声でこう聞いてきた
「明日、晴れますかね?」
「…さぁ?」
「そう、ですよね…」
凄く残念な顔をされる、そんな顔をされるとウチが困る
困った挙げ句、大体出任せを言う
彼女は何となく世話したくなるような子だ
「でも、晴れるんじゃない?」
「分かるんですか?」
さっきしたばかりの話
他愛の無い、明日になったら忘れている様な話
「さぁ、分かんない?ほらウチ天気予報見ないじゃん」
「そうでした」
そう言うと彼女は小さくクスッと笑った
それはあまりにも彼女に似合っていて、ウチは少し嬉しくなった
表情が無いって思ってたのに、正反対だぁ、本当はめちゃくちゃ感情豊かな子なんだぁって思った
だって、笑顔が凄く眩しかったから
ウチもそれに向かって、微笑んだ
それが少し恥ずかしくなって、雨の中に飛び込んだ
振り向かずに進む、進む、進む…
…立ち止まる
「………ったから」
「えっ?何か言いましたか…?」
「君が笑ったから、明日は晴れ」
それは多分、絶対に
君の笑顔のお陰なんだ
だから絶対、明日は晴れ