その綺麗な顔がくしゃっと崩された笑顔になるのが好きだから
今日も一番に君の元へ駆けつけよう
* * * * *
「今日もする?」
「うん、良いよ!!じゃあジャージに着替えてアップしたら集合で」
海と山に囲まれたこの街に一つだけある高校
そこの陸上部に私は所属している
練習はまぁまぁハードで毎日ヘトヘトになるけど
その疲労も走っているときの爽快感に比べたらなんて事は無い
「今日こそ、舞美に勝つからね!!」
「うん、正々堂々頑張ろうね」
その陸上部の中でも私は記録が良くて、皆の目標なんかにされている
私はそれがちょっと自慢だったりもする
* * * * *
「集まった〜?」
「「はーい!!」」
この陸上部には伝統の練習がある
海岸線から小高い丘に伸びる山道を皆が一斉に駆け上がる
ゴールは頂上にある家の前
私はまだこの練習で誰にも抜かれた事が無い
それは走るのが速い事もあるんだけど、それだけじゃない
だって、ゴールで待っている人が居るから
* * * * *
風の音が聞こえる
ゴーって聞こえる時もあれば、ビューって聞こえる時もある
その日によって違うけれど、私はその音が嫌いじゃない
そして、それに混ざって聞こえて来る声
…えりの声、私を応援してくれる声
ゴールである家の窓を大きく開けて、えりはそこから外を見ている
それは私たち陸上部が走っていない時もそうしているって言っていたから、
多分えりの趣味なんだろうと、私は思っている
頂上に到着する前に一番大きなカーブ
坂の角度も手伝って、多分この練習で一番の難所だと思う
私も何度か走るのを止めて、歩きたくなった事もある
だけど、ここを超えたら、すぐにえりに会える
そう思うと、ここ一番の力…皆にはバカ力って言われるんだけど、そういうのが湧いて来るんだ
* * * * *
両手を上げてゴールのポーズ、後続はまだ来ていないみたいだ
やった!!と心の中で思って、家の方を見る
居た…えりが窓から身を乗り出して手を振っている
「舞美ー!!お疲れさまー」
「えり、ありがとー!!今日も一番だったよー」
大きくピースを作ってえりに見せる
皆が来るまでの間、ほんの少しのおしゃべり
私はこの瞬間がたまらなく好きだ
「舞美、ホント凄いねー」
「一番に来ないとえりと話せないじゃん、だからぁー」
だから、私は走るんだ…誰よりも速く、速く
私が一番に着いたのを見て、誰よりも可愛く笑うえりを見る為に
「何か他の子たちも来たみたいだよ」
「う〜、マジ?あぁ、ホントだ…」
えりにそう言われて、振り返り見ると確かに皆がゼェーゼェー言いながらやって来る
えりと一旦バイバイしなくちゃ行けなくて、残念な気がするけど
今日もえりのあの笑顔を独り占め出来たから、良しとするか…
「舞美、今日も格好良かったぞー」
「…えりの為、とか言ってー!!」
えりがアハハと笑った
私もうん、と一回頷いて笑って皆の元へ駆けて行った
* * * * *
うん、今日も風の音と眩しい笑顔
それが私の足を、誰よりも軽くする