丘の上の話


街外れにある、小さな小さな丘

丘と言っても本当に小さなものだけれど、大荷物などを運ぶには少し厄介であった


「大丈夫かい?」

「はいっ、力には自信があるんで」


街の運送屋で働く雅は、そこで働くものの中では若く元気があった

その明るさから皆からの人気者であり、またその容姿から熱い視線を向けられることも多かった


「今日は、丘の上のお屋敷だけど」

「それはちょっと大変そうですね」

「あれなら助太刀も呼ぶけど…」


雅の上司は雅を本当に大事に思っていたので、優しく接していた

雅はそんな上司にとびきりの笑顔を向けて、大丈夫だと言って断った


* * * * *


「ふうっ…」


荷物の箱を持って雅はため息をついた

大丈夫だとは言ったものの流石に少し疲れていた

しかし、目的地はもう目と鼻の先だ

雅はもう一度ため息をつくと、よしと気合いを入れてまた歩き出した


* * * * *


「すみませーん、お荷物お持ちしましたー」


屋敷の前で声を上げ、到着を知らせる

屋敷は大きく、しっかりとした構えでそびえ立っている

この屋敷には初めて来たが、仕事は他の所と変わらずにするだけだ

雅はそれをしっかり分かっているのでいつもの様に声を出した


しかし、返答が無い

おかしいなぁと思い、もう一度荷物の到着を知らせた


「すいませーん、お荷物お持ち…」

「……はぁーい」


やっと聞こえた声はか細く、はっきりとしないものだった

カチャリと扉の開く音がした後に見えた姿は雅が想像していたものと違い、大人ではなく子供であった

とは言え、そういうケースが今まで無かったわけではないので、やはりいつも通り仕事をこなす


「あっ、今私しか居なくて…」

「大丈夫ですよ、受け取りのサインをココにお願いします」


サッと紙を差し出し、サインをもらう

ここで仕事は一応終了だ


「ありがとうございました」

「いえ、お荷物の配達等の場合はよろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げ、お客様に笑顔を向ける

顔を上げ、雅はぼーっとその子を見つめる

お客様であるその家の子は、ノソっとした感じの話し方だがどこか気品が感じられる

…可愛い子だな、と雅は思った


「こんな家にまでお仕事大変ですね」


雅が一人でどぎまぎしていると、突然に声を掛けられた

先ほどまでとは打って変わって、明るめの声になっている


「仕事ってそんなもんです」

「私は家から出た事ないから、そういうの凄く格好良いと思うんです」


ニコと笑われ、どういう反応をしていいか分からなくなる

それ程に目の前の少女の笑顔は綺麗で、どこか儚かった


「私、ここから出た事が無いんで、あなたみたいな人に憧れます」

「出た事無いって、どうして?」


少女は2度『家から出た事が無い』と言った

雅はそれを不思議に思い、聞き返した


「私体、弱いんです…それで家から出るなって言われていて…」

「そう、なんだ…」


雅は少し下手くそな笑顔を見せた

少女はそれに気付いたのか、気付いていないのか分からなかったが雅を見てまた儚く笑った


「それでは、あの…」

「お荷物ありがとうございました」


* * * * *


数日後、雅はまた丘の上の屋敷に来ていた

仕事着ではなく、普段着で

その手には抱え切れないほどの花を持って

それは全て丘の下…街で摘んだ花で花屋には売っていない様な野草も多く含まれていた

雅自らが拾って、作った色とりどりの花の束


「すみませーん、お嬢様はいらっしゃいますかー!!」


それはこの屋敷から出る事の出来ないあの少女への小さなプレゼント


「今日はお嬢様にお荷物…いえ、プレゼントをお持ちしましたー!!」


* * * * *


丘の上へのプレゼント

代金は君の名前と可愛い笑顔で…