rainy rainy

雨の日の放課後の教室はまるで隔離された様な空間になる

いつもなら注意されるまで教室に残っている様な子たちも直ぐに出ていく

だから、私は雨の日の教室が好きだ



確かに今日の様にかなり強めの雨だと、困る事はある

傘を差しても飛沫で全身濡れてしまったり

自分自身が濡れなくても、鞄が濡れてしまったり


だけど、それは時が経てばどうって事のない過去になる


そんな小さな事を気にするよりも、私はその時に楽しめる事を感じる方が得だと思っている



楽しめる事と言っても、せいぜい落ちてくる雨の観察とか、雨音を聞くとかしかないんだけど

それでも私にとっては案外楽しかったりしている


そういう事をしていると、私の体がどんどん融けていく気分になる

それは心のどこかで望んでいる事であり、心のどこかで拒否している事でもある


要するに私は“無”になってみたいけれど、“独り”にはなりたくないのだ


* * * * *

 

シトシトと降る雨が心に響く

それは凄く心地よいリズムで響く

出来れば乱されたくないのだけれど、そういう時は大抵邪魔されてしまうもので

こういう考えがまず邪魔になってはいるのだけれど…


ガラガラっと教室の扉が開く音

何でだろう誰がしてもこの音なのに、アイツだけ何か違う

普段の行動にもいちいち音が付く様なアイツだからだろうか


そんなアイツも私の事は何故かちゃんと理解してくれている


現に今だってそうだ、教室に入って来たのに私に声をかける事はない

真っ直ぐに私が座る席の前に来て、椅子に座る

頬杖付いて窓の外を眺めている私の事なんか気にしないで机にうな垂れる


「雨だね…」

「うん」


正直普段はすごくうざいと思う

だけど二人になると一番楽な相手だったりする

背格好が似てる、性格は似ていない

決して上手く行く様な二人とは、自分自身でも思えない


だけど、思想が似てるのかもしれない


コイツ…桃も雨が降る日には私と一緒に雨を眺める


「気持ち良いね…」

「うん」


今、教室には私と桃の二人きり

不安定で、あやふやで、気を許した瞬間に消えてしまいそうなそんな感覚

それを凄く、びっくりするほどに私は愛している

桃がいるとそれが更に好きになる


「桃ねぇ、好きなんだ」

「何が?」

「雨」

「…知ってる」

「うん」


桃の理由は多分、私と一緒の理由で

それはいつ聞いたかも知らないけれど、私は分かっていた

…多分、それは雨音が教えてくれた事



「帰ろうか」

「…う〜ん」


机の横に掛けてある鞄を持つ

スクッと立ち上がるとまだ机に顔を付けて外を見ている桃を見下ろす

サラサラとした黒髪、その隙間から見えるほんのり紅い頬

見慣れている桃の姿なのに、深くにも

綺麗だと思った


そんな状況を早く回避したくて私は上擦った声になってしまった


「ほっ、ほら、帰ろう」

「うん」


ゆったりと仕草で立ち上がり鞄を持つ

少し名残惜しそうな表情を見せる


「どうかした?」

「う〜ん、外に出るのはちょっと憂鬱」

「でも、仕方ないよ帰ろう」


ほら、と促して私は先に扉へ向かう

桃は一瞬だけ間を置いて、私のあとに続く



「あのさ、桃」

「なぁに?」

「あんたが良ければだけど…あと、上手く条件が揃えばだけど」

「うん?」

「また、雨見よう」


振り返らずにそれだけ告げた

返事が欲しいワケじゃなくて、そうしたかったから告げただけ

ただ、正直に気持ちを伝えたかっただけ


「佐紀ちゃん何言ってるの?」

「えっ、いやぁ〜、何だろうね?」

「変なの」

「うわっ、ヒドッ!!」

「そんなのわざわざ言わなくても、桃と佐紀ちゃんしかいないでしょ」


桃は然も普通に言い放って私を追い越す

そして、扉に手をかけ私を振り返る


「いつまででも、一緒に見るよ」

「……」

「だから今日は帰ろうよ、ねっ?」

「ありがと…」


桃に届くか届かないかの大きさでお礼を行って、私は前を行く桃の隣まで走った


* * * * *


桃が居る限り、私は独りになる事は無い

雨が降る限り、私の気持ちは伝わっている


だから私は雨の日の教室に今日もまた残っている

君に正直な気持ちを伝える為に