私と彼女の一歩
母には怒られたけど、父の「良いんじゃない、社会勉強だよ」って一言で高校に入ってから始めたこのバイト
家からまずまずの距離にある少しお洒落な飲食店
バーって感じでもなくて、レストランって感じでもない
飲食店としか言い様がないこの店
土日は昼から夜まで働いて、平日は夕方から遅いと次の日になるまで働く
ヘトヘトに疲れはするけど、店長の藤本さんは格好良いし、よく一緒にシフトに入る吉澤さんは優しいから辞めたいなんて思わなかった
お客さんはいろんな人が来る
会社勤めの人も居るし、どんな仕事をしてるか想像出来ない人も来る
それに近くの大学のコンパにも頻繁に使われる
今日はその大学のコンパだったみたい
私よりも少し年上のハタチそこらの人たち
豪快に食べたり、飲んだり
その中でも可愛くて、でも目立つ感じじゃない人がいた
周りからは“カメ”とか“エリ”って呼ばれているその人は
名前を呼ばれる度にポヤーっと返事をして、他の皆に対応していた
その人が私の目を引いたのは可愛さだけじゃなかった
グラス片手に皆の所を行ったり来たり
軽めのカクテルだったけど、何杯も飲んでいて結構な千鳥足
何て言うか、危なっかしかった
それなのに、普段から危なっかしいのか誰も彼女に手を貸してあげない
私はそれにイライラして、そして放っておけなくなっていた
結局、件の集団は閉店時間まで食べて、飲んで、騒いで
貸し切りだったけど、かなり自由に店を使っていた
店を閉めて、ゴミを捨てに行く
それは大体私の仕事で、今日も私がした
ゴミ収集場に行くと、うずくまって気分悪そうにしている人
…“エリ”さんだった
「あの、大丈夫ですか?」
「んうー、大丈夫れすぅ〜ヘヘヘ〜」
声をかけずにはいられなかった
大丈夫なんて言ってはいたけど、確実に大丈夫じゃない
私は急いで店に戻って帰り支度をして
冷えたペットボトル入りの水を持って、そこへ戻った
彼女はまだそこに居た
私は駆け寄ってペットボトルの蓋を開けた
「とりあえず、これ飲んで下さい」
「ごめぇん、ありがと…」
このバイトを始めたおかげで、酔っ払いの介抱はそれなりに出来る
どれだけ酔ってるかも大体分かる様になってる
水をチビチビと飲む彼女はそれなりに酔ってはいるけど、なんとか大丈夫そう
それでも夜道を一人で歩くには危険だし、何よりも私が隣に居てあげたかった
「家、どこらへんですか?」
「近く…だから、皆には帰ってもらって」
近くなら、送っていかなくても大丈夫そう
だけど、彼女の友達もそう考えて帰ってしまったんだろう
どう考えても大丈夫じゃなかったみたいだ
「肩、貸すんで掴まって下さい」
「えっ、いいよ…」
「よく無いんで、早く掴まって下さい」
少し口調強めに言うと、彼女は遠慮しながらも私を支えにして立ち上がった
「歩けますか?」
「んうー」
じゃあ、と声をかけて小さく一歩を踏み出した
確かに彼女の家はすぐ近くだった
可愛い、女の子向けのアパートって感じ
1階だから、もう大丈夫と言って私から離れた
少しだけ寒くなったと思った
「そうだ、君の名前は?」
「小春」
「小春、ね…」
フニャって笑う彼女は酔ってるのか、醒めてるのか分からなかった
だけど、凄く可愛かった
「今日…いや昨日からありがとう」
「仕事ですから」
「そっかなぁ?まぁいいや、ありがとう」
次があるかなんて分からなかった
ただ、既に彼女に憧れている私が居るだけだった
「じゃあね、小春」
「はい」
「じゃあね」
彼女が鍵を持ち、家に入ろうとする
そうしたら、今度は私の一歩を踏み出す番になる
それは至極簡単な事だけど、何でだろうか難しいと思った
「あのっ…」
「なに?」
「もし今度会う時は私が寒いって愚痴ったら、相槌の一つでも打って下さい…じゃあ!!」
クルッと後ろを向いて、逃げる様に私は家に帰った
だけど、そのペースは二人で歩いた一歩ずつと同じペースだった
さっきまでの事をしっかりと噛み締める様に