滲むシルエット

少し前を歩く背中を

 

どうしたいのか分からないまま見ていた

 

 

 

先週の木曜日の夜だった

いきなり斜向かいの矢島さんちの舞美ちゃんが私の家にやって来た

 

昔は一緒に遊んでくれていたけど、舞美ちゃんが中学校に入って陸上部に入ってからは、何となく疎遠になっていた

 

「今度の土曜と日曜にさ、大会があるから来ない?」

 

いきなりの訪問に、いきなりの誘い

何でも、舞美ちゃんは今回かなり頑張っているらしく、結構いい成績を残して、県大会に進んだらしい

県大会でも頑張りたいから、皆に見て貰いたいんだって、興奮しながら説明してくれた

 

私は良いよって答えた

単純に舞美ちゃんを応援したいのもあった

 

でも、少し行きたくなかった

 

 

「えりとかも来るから、愛理も来てくれないかなって思って誘いに来たの」

「えりかちゃんも来るの?」

「うん。あと栞菜も来るし、なっきぃでしょ…」

 

舞美ちゃんは指折りながら来る人を確認している

私にはそれは聞こえなかった

えりかちゃんの名前以外聞こえなかった

 

 

えりかちゃんは舞美ちゃんの親友

…だと思っていた

 

小学校の時から二人はずっと一緒に居て

皆とも遊んだりしていたけど、二人の間には言葉に出来ない何かがあった

 

私はそれが羨ましくて、同時にそれが煩わしかった

 

二人が普通の関係じゃないって知ったのはちょっと前

舞美ちゃんの家の前で二人はキスをした

 

私だって友達同士で軽めのキスはしたことがある

だけど、それは違ったって私は言い切れる

 

凄く綺麗で、儚くて、悲しくて

あんな顔をする舞美ちゃんもえりかちゃんも初めてだった

 

 

 

応援は精一杯した

舞美ちゃんは頑張って、表彰台には乗れなかったけど5位入賞って言う立派な結果を残した

 

私の隣でえりかちゃんは嬉しそうに拍手をしていた

 

閉会式の時に舞美ちゃんは私たちを見つけて、手を振ってくれた

多分、えりかちゃんしか見ていなかったかもしれない

えりかちゃんもそれに大きく振り返して、舞美って名前を叫んだ

 

私は涙が出そうになるのを堪える事が出来そうになかった

 

何で、舞美ちゃんなんだろう?

私は何度となくそんなことを思った

 

舞美ちゃんの方が先に出会ったから?

舞美ちゃんは同じ年だから?

 

私には何にも分からなかった

 

 

「舞美ちゃんと一緒に帰らなくて良かったの?」

 

帰り道

栞菜やなっきぃたちと別れて、私はえりかちゃんと二人きりになった

 

「あー、何か片付けがあるって言ってたし、今日は部活の子たちと打ち上げって言ってたから、舞美」

「そうなんだ…」

 

えりかちゃんはいつも通り、何の変わりも無い

二人きりって言う状況に、私だけがバカみたいに緊張して、バカみたいに舞い上がっている

 

「それにしても、舞美凄かったねー」

「うん、凄かった…」

 

私はずっと歩幅を合わせようと、一生懸命にえりかちゃんの隣を歩いた

 

「“えりが来たら頑張れるから”とか言われたら、応援するしかないよね」

「うん…」

 

でも、えりかちゃんが嬉しそうに舞美ちゃんの名前を言う

その度に私は一歩が小さくなる

 

「舞美の真っ直ぐな所、好きなんだよね」

「…」

 

そして、どんどん距離が出来る

隣に居たのに、もう背中が見えるほど離れてしまった

 

「…でね、あれ愛理、ウチ歩くの速い?」

「うぅん、大丈夫」

 

“そっか”って言ってえりかちゃんはまた歩き出す

私はその背中を見て泣きたくて、でも泣きたくなくて

 

 

小さな一歩さえ踏み出せなかった