私が一瞬で走り抜ける事が出来る距離でもなくて
それでも、息が切れるほどきつい距離でもない
物心が付いた時には隣に居て、それは今でも変わらなくて
嬉しいことに高校まで一緒に居る事が出来る
少し運命めいたものすら感じる事が出来た
だから、皆が異性に興味を持つ頃になっても私はえりにしか興味を持てなくて
でも、それを打ち明けるのは簡単な事じゃなくて
私は珍しく辛抱強く、この気持ちを大事に隠してしまっていた
放課後、部活に向かう私は階段を降りる為に隣の教室の前を通る
それは絶対で、そうしなければ部活に行けないから
その時に教室に残って話をしている集団を見る
それは日課
そうしなければ、えりを見る事が出来ないから
何でここまでするのか…
だって…
だって、こんな事になるなんて思いもしなかったから
* * * * *
中学でもクラスが違って教室で一緒に居る事が出来なくて
朝練があるから登校は一緒に出来なかった
それでも中学ではえりも吹奏楽部に入っていたから週に何度かは一緒に下校が出来た
そして、同じ高校に行けると決まった時には、二人で泣きながら喜んだ
喜んだはずなのに…
なのに、だ
私は中学から続けて陸上部に入った
でも、自分のしたい事をしたいと言って、えりは部活に入らなかった
私は何度か部活しないの?って勧めてみたけど、えりに無理強いするのは何か嫌で
結局、私はえりの意志を大事にした
こうして私とえりが一緒に居る時間が少しずつだけど自然と減っていった
それでも、私の気持ちは反比例するかの様に強まるばかりで、全く弱くならなかった
時々見る、えりが誰か他の子と居るのが歯痒くて…
えりのあの笑顔を作っているのが私じゃないのが悔しくて…
* * * * *
「うん、じゃあ終わるまであ待ってるよ」
「えりか、ごめんね」
「しみさきちゃんの頼みなら仕方ないって!!」
「本当、ありがとう」
教室の前を通る一瞬
えりの声が聞こえるのが嬉しくて、そんな日は誰よりも速く走る事が出来た
えりの声が聞こえないと不安で、そんな日は足が鉛の様に重く感じた
今日は声が聞こえたのに、どうしても落ち着かない
えりが他の誰かと帰る現実
頭では分かっていても、それを目の当たりにすると
全身に一気に矢の雨を浴びたかの様に痛いと、心が泣いた
案の定、今日の部活は最悪だった
タイムは悪いし、顧問の話を聞いていなくて怒られるし
部活の皆は心配してくれた
でも、私が欲しいのはそんなんじゃなくて、えりだけだった
えりが居ないなら一人が良い
私のそんなワガママは私を独りにした
部室から校門までの距離、いつもより寂しい気がした
そんな時だった
* * * * *
やっぱり、私が欲しいのはえりで
独りを一人に戻して、二人になるのはえりだけ
「舞美!!」
後ろから聞こえた声
安心出来て、泣きたくなる
でも、泣かない、泣けない
えりは小走りで私の隣までやって来る
その音ですら愛しい
「えり…珍しいね、こんな時間に」
「しみさきちゃん待ってたんだけど、桃ちゃんにとられちゃった」
冗談めいて話すえり
その顔には全く怒りの感情は無くて
逆に何だか嬉しそう
「3人で帰れば良かったじゃん」
「ん~、桃ちゃんさ、しみさきちゃんと違うクラスなのに一緒に帰りたくて待ってたみたいだから
なんか邪魔出来なくて」
あぁ、こんなえり久しぶりだ
私の中のえりじゃなくて
本物のえりらしい、えり
ウチが求めて、求めて、どうしようもないくらい好きなえり
「ウチも舞美が居るからって思って」
「えっ…」
「せっかく一緒の高校なのに、全然会わないじゃん?だから、舞美を待ってた」
「…」
そう言って、道に会った小石を明後日の方向に蹴飛ばすえりが
何だか私に似て見えたのは気のせいじゃないと思う
* * * * *
一瞬で走り抜ける事が出来なくても
息だって切れるほどきつくない、心地好さ
他愛のない話、それでも満たされる様な距離
そんな二人の帰り道はまるで中距離
並んで歩いて帰る
そんな私の中距離恋愛