花折り人

物憂げな笑顔に甘い薫り

あぁ、まるで儚く散る金木犀の様だ

 

ふと鼻をくすぐる覚えのある匂い、季節を知らせる一通の手紙の様な匂い

 

金木犀…

ほんの短い時期

一斉に咲き誇り、一斉に散る

 

だからと言って、忘れ去るにはいかない

鮮烈に心を掴んで離さない

微かに薫ると探してしまう

薫りの源はどこなのか、足が勝手に動いてしまう

辿り着いた、人気のない路地

 

私は見上げ、腕を伸ばす

枝がたわんで、花が散る

 

 

…瞬間、目眩がする

 

 

遠く離れて居ると可愛らしく恋しい

近く傍に居ると眩しく煩わしい

 

金木犀の花がこんなものだと、あの子は知っているだろうか?

 

私にとって、金木犀は君

近くに居すぎる事で、私は目を伏せる

 

先程掴んだ枝をもう一度掴む

たわんだ反動で幾らか花は散ったが、まだまだ在る小さな橙の集まり

 

可愛くて、愛しくて、眩しくて、憎い

 

枝の先、一段と細くなった部分

指先に力を入れ、その細い枝を折る

 

「…こんな事して、何になるんだろう…」

折れた枝

 

花を散らす様に指で触れる

花は散る、でも、散らない

私の目からは散る事はない

 

何でこうも虚しいのだろうか…

虚無感に襲われ、私は立ち竦む

 

ポケットの中で振るえる携帯電話

 

「…梨沙子」

 

君は私の季節の中に常に存在する金木犀

今、こんなに愛しいのは、離れているからなんだろうか?

 

「…もしもーし」

「あっ、みやぁ~」

 

甘い薫り、鼻に残る

甘い声、耳に残る

 

「何、どうかした?」

「ん~、ただ何となく」

「何それ…」

 

目に映る、橙の花

瞼に浮かぶ、表情

 

「時間、有る?」

「無くは、ない」

「遊びに行って良い?」

「…」

 

どうしてだろう、足が勝手に動くのは

どうしてだろう、心が君の名前を叫ぶのは

 

「今外だから、ウチが行く…」

「えっ、ホント?」

「うん、お土産あるから」

 

そう言って握ったままの枝を見る

近くにあるのに、先程よりも可愛く見える

「何?お土産、何?」

「ん~、秘密…」

 

君の声の甘さも

花の薫りの甘さも

 

「じゃあ、待ってるね」

「うん」

 

君はやはり金木犀

 

私は見上げる花折り人