美味しいケーキはどうですか? 4

たまたまから始まって 
たまたまで行き詰まって 
私は自らたまたまを続けている

* * * * *

たまたま午後から雨が降った 
今朝、家を出るときに叔母さんに渡された傘は邪魔物にならないで、しっかり役目を果たす目前だ 

雨のせいでいつもより早く暗くなった空 
昇降口の切れそうな蛍光灯も相まって、全体的にどんよりしていた

そんな昇降口でその人、梅田さんは立っていた 
クラスが一緒 
集会とかがあると、背が高いからって理由で後ろに並ばされる 
それくらいしか接点は無くて 
だけど、知らないワケじゃない 
だから、声を掛けた 

「傘、ないんですか?」 
「あっ、うん…」 

…失敗だと、直ぐに悟った 
こんな事聞いてしまったら、その横で普通に傘を差すなんて、まるで性格の悪い人みたいだ 

「入ります?」 
「えっ、迷惑だろうしいいよ」 

はっきり言って私の負けだと思った 
こんな事聞いたら、結果として入れてあげると言うモノしか出てこない 

そこからは互いに何も言い出せなくて 
結局、私は梅田さんを傘に入れてあげた 

それは多分、最初の風が吹いた瞬間だった

こうなったら普通傘に入れてもらった方が恋に落ちるのが定説 
なのにそれを覆してしまったのは私 

他愛ない話をして 
今まで知らなかった分の梅田さんを知った 
クスクス肩を揺らしながら笑う梅田さんは女の子って感じで 
何がどうかなんて分からないけど 
どうしてか自分でも不思議なんだけど 

私は恋に落ちていた

私は傘を持っていて 
梅田さんを傘に入れて 
本当に良かったと思った 

多分傘を持っていた時点で私は負けだったんだ 
この恋は勝負じゃないけど 
私は完璧に梅田さんに負けていた

「あっ、ここで良いよ」 
「家まで送るよ、近いし」 
「いやぁ、今日行きたい所あるから」 
「そっか、じゃあね」 

梅田さんはそう言うと、雨をどうにか防ぎながら 
一軒のお店に入って行った 

そのお店は何よりもそこに溶け込んでいて 
まるで梅田さんを吸い込む様に、そこにあった

そのお店には喫茶Vientoと書いてあった 

「Vientoって、何だろう?」 

私はそのお店の前を通る時、そんな事を考えていた 

そこから急速に私の生活は変わって行くなんて、まだ知らなくて 
Viento 
正に風が吹いたなんて知らなくて 

その風に背中を押されたのは、たまたまだったのかも分からない

* * * * *

「矢島さん」 
「っ、はいっ!!」 
「そんなに驚かないでよ…」 

少し呆れた様に笑う 
そんな姿にすらドキドキしてしまう 
何でこんな事になったんだろう 
分からないけれど 
私は梅田さんの全てが好きで仕方ないみたいで

「今日、放課後時間空いてる?」 
「空いて、るよ…」 
「じゃあさ、一緒、一緒帰ろ?」 
「えっ?」 
「この前のお礼、したいし」 
「あっ、でも…悪いし」 
「いやぁ、ウチがしたいだけだからさ!!」 

そこでチャイムが鳴った 
タイミングの悪さはまるで私に似ているな、なんて思った 

「じゃあ、放課後!!」 
「…うん!!」 

梅田さんはそう言って席に戻って行った 
私は少し思考が追い付かなかったけど、皆が機械的に席に戻るのを見ていると、私の身体も命令が走ったのか席に戻ろうとしていた

(早く、放課後にならないかな…) 

本当は最初っから断るつもりなんてなかったのかもしれない 
逆にそれを望んでいたと思う 
ただ、二人で居るってなると何だか凄く恥ずかしい気持ちがした

当然と言えば当然なんだけど授業になんか集中できなくて 

当然と言えば当然なんだけど時間はいつも通り過ぎていく 

「行こっか?」 
「うん」 

真っ直ぐ、真っ直ぐ 
道のりはいつもの帰り道と一緒 

「ここだよ」 
「Viento…」 
「そっ、喫茶店なんだよ」 
「この前…」 
「あっ、見られてた?」 

梅田さんに連れて来られたのは、この前梅田さんが入って行った喫茶店 
私は梅田さんの生活の一部分を知れた様で 
少しだけ嬉しかった

「…ごめんね、好き嫌いとか知らなくて 生クリームだめとか、あんまり居ないし…」 
「うぅん、チーズケーキなら食べれるし、紅茶凄く美味しいよ」 

ちょっとだけ実感する 
少しずつ知っていってるけど 
まだ何にも知らないってこと 

「えりかちゃんって本当ダメダメだよね」 
「もー、亀井さん五月蝿いです」 
「だってそうじゃん、お礼のはずが迷惑かけて」 
「もうっ!!ごめんね、矢島さん…」 

でも梅田さんはVientoに来てから凄く楽しそうだって事 
それを見た私も相当嬉しくなっている事 

「そうだ、えりかちゃん」 
「あっ、はい?」 
「この前のヤツ、やっぱり無理っぽい?」 

それは突然に 
それでも確実に 
私と梅田さんを近付ける話だった

「そっ、その話なんですけど、バイトはやっぱり、って言うか時間が…」 
「え~困ったなぁ、雅ちゃんが家に戻るんだよね~」 
「あっ、みや仲直りしたんですね」 
「そう それでシフトに入れる日が減るみたいで、至急新しいバイト見つけないと、ガキさんがプンプンでさぁ~」 
「えっ、でもなぁ…」 

梅田さんが難しい顔をして話を聞いているのを、私は眺めているだけだった 

「そっか、えりかちゃん頭が弱いから補習が始まるって言ってたね」 
「うっわ~、亀井さんに言われるとムカつきますね」 
「だって絵里はそんな経験ないもん、ちょー優秀だから」 
「何か今おかしい事言いませんでした?」 

梅田さん、補習あるんだ 
…って事は赤点取ったのかな? 

なんて悠長な事を考えていたのに、私の頭の結構深い所から 
矢島舞美の親切心ってヤツが這い出て来た 

「私、しましょうか?バイト」 
「「えっ…?」」 
「私、補習とか無いし…」 

もしかしたら、親切心って思ったヤツよりも数段に 
損得勘定を司る矢島舞美が強かったのかもしれない 
ただ、ただ私は今よりももっと 
梅田さんと仲良くなりたくて仕方なくて 
少しでも共通点が欲しくてたまらなかったのかもしれない

「矢島さん、だったけ?本当に出来る?」 
「はい 帰宅部だし大丈夫と思います」 
「助かるなぁ~!!でも一応ガキさんにも会ってもらわないといけないから、明後日にまた来れる?」 
「矢島さん、嫌なら嫌って言って良いんだよ!!てか、亀井さん強引に進めないで下さいよ!!」 
「梅田さん、私なら大丈夫だよ ただ…」 
「ただ…?」 
「私極度の方向音痴で、ここまで来れるかなぁって 正直な話、家近いハズなのにVientoがあるの知らなかったんですよね…」 
「それ本当?」 
「はい、本当ですよ、恥ずかしながら」 
「「アハハハハッ~!!」」 

3人で笑っていた、ごく自然に 
時が経つのはやっぱり当然で 
それでも、それに合わせて私自身も進んでいるんだと思った 

「えりかちゃんは良いとして、矢島さん、時間大丈夫??」 
「あっ、そろそろ…」 
「あっ、ウチ送っていくよ」 
「じゃあ、矢島さん、またね」 
「はい、また」 

ここから、始まる物語 
私は自然とあなたの隣を歩いていく 
でも、少しだけ確信犯 
そんな淡い気持ちの物語