楽しそうにしているあなたを見るの、大好きだよ
ただその隣に居るのが私じゃないのは嫌だ
だからいつも隣に居たいの
* * * * *
そろそろ梅雨なのかな…
今日は弱いながらも朝からずっと雨が降ったり、止んだりしている
「だるいなぁ…」
小雨だと思っていた雨が次第に強くなってるよ、絶対
Vientoに行きたいのに
みやが待ってるのに、多分…
ショートケーキ食べたいのに
みやが作ったヤツ、食べたいのに
「あの…」
「えっ、あっ…はいっ!!私、ですか?」
「うん。あのさ、ここら辺にVientoって喫茶店があるはずなんだけど、分かる?」
突然声をかけるなんて変な人
あれっ。でも?
…今、Vientoって言ったよね?
あのVientoだよね?
「えっと、ですね…」
「分かる?なら案内してくれたら嬉しいなぁ、とか言って。着いたら傘貸すからさ!!」
助かった!!
…けど、Vientoに何の用だろう?この辺の学校の制服じゃないみたいだし。
「あっ、知らない人になんちゃらとか言うヤツ?私は怪しい者じゃなくて…」
黒い髪、長い髪
傘さしてるのに随分濡れて見えるのは汗かなんかかな?
「…ってんだ。だからさ、行こう!!」
少し引っ張られる形で、私はその人の傘に招かれた。
* * * * *
―カランカラン
Vientoの作りは如何にも町の喫茶店って感じで。
扉だって手動だ。
「いらっしゃ…って梨沙子か。」
「むー、みや酷い。せっかく来たのに。」
「来てなんて頼んでないし、梨沙子に構ってると仕事出来ないじゃん。」
みやは家に帰ってきたけどバイトは続けている
だから、一緒に遊ぶ時間は勿論、一緒に居れるだけの時間もあんまりないから私はみやがバイトの日は大体Vientoに行く事にしてる
「大体梨沙子遊んでばっかいないで宿題とかしたら?」
「今日は道案内で来たんですー!!」
みやに会うのが本当の目的だけど
でも、ちゃんとこの人をVientoに連れて行くって役目があったんだもん!!
私はただ役目を果たしただけ…
それだけだもん。
「すいません…面接にきた矢島って言う者ですけど。梨沙子ちゃんに案内してもらって…」
「そうだもん!!私は矢島さんを連れて来たの!!」
「あっ、梨沙子が迷惑かけませんでしたか?」
…みや、この頃ちょっと私の扱いが酷い気がする
「大丈夫ですよ。」
「面接ですよね、新垣さーん。面接する方がいらっしゃいました。」
あっ、そう言えば、この矢島さんって人、面接に来たんだ…
バイトに入ったらずっとみやと一緒に居るんだよね…
これは何か新しい問題が発生しそうな気がする…
* * * * *
Vientoに向かっていた
それを今は後悔してる
あんなの見たくなかった…
Vientoに向かう途中にみやがいつも買い出しに来ているお店がある
いかにも街の商店って感じで、店員さんは中々のどんぶり勘定で
私は利用者ってワケじゃないのに、凄くよくしてもらって、結構かなり好きだった
「あっ、みや…」
そこの近くに来た時みやの姿を見つけた
私は当然、駆け寄って声をかけようとした
でも、しなかった…出来なかった
店の外でみやは矢島さんを待っていたんだ
店から出てきた矢島さん
みやはそれを見て、笑顔になった
それは私が見たことないような笑顔で
何が嫌ってワケじゃないけど
何かが嫌で、私は今までと逆方向を向こうとした
「あっ、梨沙子!!」
「みや…」
「今日も来たの?」
「けど、やっぱり帰る…」
どうしても、嫌だった
私の知ってるみやが全部って、有り得ないのは知ってる
でも、限りなく全部に等しくて、一番みやに近い位置に居るって思ってた
気付いた時には走ってた
そんなに速く走れないけど、走ってた
あれから一週間
私は一度もVientoに行っていない
* * * * *
それなりに過ごしていけるって、勝手に思ってた
でも、やっぱり無理だった
「離れるのは嫌だって知ったばっかりなのに、バカだったなぁ…」
何でだろう、みやが他の人と居るの嫌だった事なんてなかったのに
あんな笑顔のみや、見たことなかったから
多分そうなんだ
「会いたいよ…」
やっぱり、私にはみやしか居ない、そう思った
でも、弱虫な私の足は思う様にみやの所へは向かっていけない
傍に居てくれたのはみやで
私はそれが当たり前で甘えていただけ
そうなんだって思った
「もう会わないのかな…」
そう思うと涙が出てきて
まだ外は明るいのに、私の部屋は真っ暗で
私はそのまま眠ってしまった
* * * * *
何か部屋が変だと思った
カサカサと小さく音がする
「…何してるの?」
「んー、雑誌読んでる」
「電気つけないで?」
「だって梨沙子寝てたから」
みやが居た
みやは優しさまで不器用だ
だけどそれは確かに優しさで
自然界に唯一存在する直線って言っても良いくらい真っ直ぐだ
「最近、会ってないなぁって思ってさ」
「うん」
「来てみた」
「うん」
少し会話するだけなのに、これだけ難しいのは初めてだった
みやは立ち上がって電気をつけた
いきなり明るくなって眩しかったけど
久々に見るみやは、やっぱりみやで
変わってない事が嬉しくて
変わってない事が寂しかった
「疲れてんの?」
「特に」
「寝てたじゃん、ずっと」
「まぁ、寝てたけど」
みやは分かってない
分かってたら、何か言い訳するはずだから
「今日バイトで作ったガトーショコラ、持って来た」
「…」
でも、それもみやだから
だから、少しだけ諦めた気持ちになりそうだった
「疲れてるなら、甘いモノ食べたら良いじゃん」
「うん」
やっぱり、会話が難しくて
何か嫌だった
「そう言えば舞美ちゃんも梨沙子の事、心配してた」
今だけはあんまり聞きたくない名前だった
でも、みやは普通の表情で普通に言った
あの時の笑顔じゃなかった
「梨沙子はどうもウチになついてる様に見えたらしくてさ」
“犬だって思われてんだよ、梨沙子”なんて言ってみやは笑ってた
その笑顔は私の好きなみやの笑顔だった
正直、それを見て嬉しくなった
「失礼なヤツだ、矢島さんは」
「いや、ウチはよく観察してるって思ったけど」
私も笑ってた
真っ暗だったのは、もう遠い過去になった
「あっ、そう言えば舞美ちゃんってさ…」
だけど、矢島さんの話ばっかする、みやは嫌だ
「恋人が居るのか、何か怪しいんだよねぇ~よくメールしてるし」
…
……
………それって?
思わず聞き返してしまった
「えっ?」
「どんな人なんだろ?ウチだったらいくら美人でも舞美ちゃんみたいなオカシナ人とは付き合えないや」
私はみやが不思議がるくらい大きくガッツポーズをした
「よしっ!!みや、ガトーショコラ食べよ!!」
「えっ、あっ、うん」
「ガトーショコラァ~♪」
その日食べたケーキはすっごく甘くて
だけど嫌にならない甘さで
いつまでもこうして、みやの隣で食べていたいなって思った
あの笑顔の理由はまだ分からないけど
隣にいるあなたの笑顔が私の好きな笑顔だから
私はそれでも良いのかなって
私たちってそんなんだよねって
そう感じた